2022年4月、「女性活躍推進法」の改正によって、行動計画の策定・届出や情報開示の対象となる企業が拡大した――。
具体的には従業員数101人以上の企業も対応が求められ、「女性活躍」推進への取り組みがいままさに加速している。経営者やリーダーたちにとっては、意識の変化が迫られていることを意味する。
こうした意識改革に向けて、経営者、幹部・管理職、女性社員を対象とする研修サービスを手掛けているのが、株式会社Surpass(東京都品川区)だ。
同社は「日本社会から『女性活躍』という言葉が消える日を目指して」を掲げ、2021年に「女性活躍推進総研」事業を立ち上げ、メンバーは強い想いで取り組んでいる。
Surpassの代表取締役社長・石原亮子(いしはら・りょうこ)さんに、いまなぜ「女性活躍」がこれほど求められているか、あらためて話を聞いた。
なぜ日本は女性リーダーが少ないのか?
――「女性活躍」推進のキーパーソンの一人として、手腕を発揮してきたのが石原さんです。あらためて、「女性活躍」を取り巻く現在の状況を教えてください。
石原亮子さん「ちょうど先月(7月)中旬、男女格差を数値化した2022年の『ジェンダーギャップ指数』(世界経済フォーラム)が公表されました。日本は146か国中116位で、主要先進国では最下位。男女雇用機会均等法(1985年制定、86年施行)から30年以上が経つのに、ジェンダーの平等、女性活躍への意識がまだまだ変わらない状況が続いているように思います。そうしたなか、企業のグローバル化も進むなかで、浮き彫りになってきたのが、女性リーダーの少なさです」
――たとえば、海外と日本では、どのような意識の差があるのでしょうか。
石原さん「私の体験も交えてお話ししますね。
自社の採用活動でアジア圏(モンゴル、中国など)を訪問したときのこと。その説明会で、現地の若い人たちに『日本から女性の社長がくるなんて、意外!』と言われて驚きました。日本には男性のリーダーしかいないと思われていたようなのです。日本で働き、家族に仕送りをする彼女たちにとって、自分が会社でどのポジションにつけるか、稼げるようになるか関心が高いのです。
一方、ヨーロッパ(オランダ、フランスなど)を視察した際、『どうして欧州では女性活躍が進んでいるの?』と率直に聞くと、相手は『その質問の意味がわからない』と。これにも、びっくりしました。欧米では、自分の人生に積極的に取り組み、男女関係なく、働くということが当たり前で、文化として根づいていることだと実感しました」
――日本とは感覚が異なるところもあるのですね。ジェンダーギャップ指数の話もありましたが、やはり、日本の企業における「女性活躍」推進は遅れているのでしょうか。
石原さん「そうだと思います。しかし、ご承知おきのように、いま企業にはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)を重視する『ESG経営』が求められています。このうち『S』と『G』のカテゴリーにあるのが、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン=多様性・公正性・包括性)で、『女性活躍』もこの文脈で語られていますね。女性管理職比率も、指標のひとつとなっています」
石原さん「ESG経営に取り組む本質は、持続可能な社会の実現です。これからは、経営の視点を短期から長期に変え、経営戦略の一つにDE&Iを取り入れることで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげていくことが求められています。
もっとも、日本ではこれまで、頭では必要性を理解していても、真の意味でダイバーシティや女性活躍が意識されなかったと思います。ところが今後は、海外の投資家などからは、こうした問題にクリティカルな質問をされる場面が増え、企業や経営者は対応を迫られることが想定されます」
多様性はイノベーションの源泉...「異質」へのリスペクトを!
――どうして企業の成長には、経営戦略としてのDE&Iは欠かせないのでしょうか?
石原さん「女性活躍を含めてダイバーシティ(多様性)は、イノベーションへの源泉になるからです。多様性――すなわち『違い』は力になります。日本は同質性に敏感で、『同じ』をよしとする文化がありました。それが団結力を発揮してきた側面もありますが、今後は弱みになるかもしれません。
ダイバーシティにおいて大事なのは、違和感、異質、異文化を受け入れ、リスペクトする姿勢です。そして、リーダーたちは組織内でダイバーシティが発揮される環境を整え、その先にイノベーションが生まれることを理解してほしい。そうでなければ、イノベーションの芽をリーダーたちがつんでしまう可能性もあります。言うまでもなく、未来は常にマイノリティの人がつくってきたのですから。
女性活躍、ダイバーシティを推進するために、まずは自社の現状を知ることから始めてはいかがでしょう」
――自社の現状を知るためには、Surpassの「女性活躍推進総研」が手掛けるダイバーシティ研修から気づきを得られそうです。実際に研修を受けて、変化が生まれた企業の事例はありますか。
石原さん「そうですね。経営陣が全員男性だったある企業では、社長をはじめリーダー層のみなさんに、ファクトにもとづきながら、『ダイバーシティとは何か』という説明から始め、男女の生物学的な違いやホルモンのこと、企業文化/カルチャーの作り方などを説明しました。
一方で、女性社員への研修もおこないました。女性活躍においては、経営陣だけではなく、女性社員自身の意識変化も重要です。社会の流れを知り、仕事のとらえ方を見直すことで、『視野が広がった』という人が多数いました。その結果、女性マネージャーが誕生するなど、社内環境がよい方向に変化しています」
――「とらえ方」が変わるだけでも、社内は変わっていくのですね。ほかに、「女性活躍推進総研」の研修が大事にしていることは?
石原さん「私たちの研修では、why(なぜそれをやるか)を大事にしています。手っ取り早く成果を出すためにはhow(手段)を求めがちですが、whyを確認することは、物事に取り組むときの原動力になります。
たとえば、研修ではグループワークなどを通して、自ら考え、話すことも大事にしています。たとえば、『女性活躍』とはどういうことか――言葉の意味について、みなさんで議論してもらうのです。性別、立場や役職によって、物事のとらえ方は異なるもの。だからこそ、話すことで確認し合って、共通認識を持つことが必要。そして、それを会社や個々の人の活動につなげていくのです」
――そうした作業が自分たちの現状を知ることになり、「女性活躍」への最初の一歩につながるのですね。
最後に、「日本社会から『女性活躍』という言葉が消える日を目指して」というメッセージを掲げて、「女性活躍推進総研」の事業を展開されている思いはなんでしょうか。
石原さん「『女性活躍推進総研』の立ち上げには、会社や事業を活用して、社会課題の解決につなげたい、という思いがありました。たとえば、仮に、当社で1万人雇用できたとしても、『隠れ貧困』やシングルマザーなど経済的に苦しい人が100万人に迫ろうといういま、全体で見たら微力です。
そこで、『女性活躍推進総研』を通じて実現したいのは、各企業や政治の世界などで女性リーダーたちを増やすこと。ジェンダー格差の課題に対して意思決定できる女性リーダーが増えると、いまの社会の『当たり前』が変わっていくと信じています。
言い尽くされた感のある『女性活躍』という言葉が、いまだにあるのはそこに課題があるからでしょう。そして、女性活躍という言葉をなくすには、社会を巻き込まなければうまくいきません。こうした社会課題に理解のある女性(もちろん男性も)のリーダーたちとともに、よりよい世の中へと向かっていけたらと思います」
――ありがとうございました。
Surpassの「女性活躍推進総研」では経営者、幹部・管理職、女性社員を対象とする研修サービスを手掛けています。Surpassは、営業未経験の女性社員を現場で活躍できるよう育成してきた独自の女性営業育成や女性マネジメントノウハウを蓄積。これらの強みも生かしたダイバーシティ研修となっています。詳しくはこちらから。
https://womanworkstyle.surpass-star.com/
【プロフィール】
石原 亮子(いしはら・りょうこ)
株式会社Surpass 代表取締役社長
短大卒業後、大手生命保険会社でトップセールスとして活躍。一部上場企業からベンチャー企業まで100業種以上の営業実績を持つ。2008年、株式会社Surpassを創業。LTV(永続的な信頼関係と売上の構築)を重視した女性による営業アウトソーシングのパイオニア。2021年、営業DXと女性育成ノウハウを活かし、徳島市やさぬき市とジェンダー格差改善を目指した連携協定を締結。東京都女性経営者塾の講師など女性起業家としても幅広く活躍。
・東京都 女性起業家活躍推進プロジェクト「NEW」メンター
・グローバル起業家機構「EO Tokyo」メンバーシップ理事
・日本人起業家ネットワーク「WAOJE」東京支部理事
・2022年「第8回ホワイト企業アワード」ダイバーシティ&インクルージョン部門受賞
・2021年 TOKYO女性経営者塾 by N E W 経営基礎コース 講師
・2020年 第3回 東京NEW CONFERENCE登壇
・2019年「WOMAN'S VALUE AWARD2019」総合部門特別賞受賞
・2019年「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2019」従業員数300名未満の部受賞
・2017年「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2017」企業部門第3位