「仕事(ワーク)」と「休暇(バケーション)」を組み合わせた「ワーケーション」への関心が高まっている。「リモートワーク等を活用し、普段の職場や居住地から離れ、リゾート地などで普段の仕事を継続しながら、その地域ならではの活動も行うこと」と定義されている。本書「ワーケーションの教科書」(KADOKAWA)は、「どこでも、いつでも働く」新しい仕事のあり方について啓蒙している。
「ワーケーションの教科書」(長田英知著)KADOKAWA
著者の長田英知さんは、Airbnb Japan株式会社執行役員。東京大学法学部卒。戦略コンサルタントなどを経て2017年より現職。19年から京都芸術大学客員教授も務める。著書に「ポスト・コロナ時代 どこに住み、どう働くか」などがある。
ワーケーションという言葉は、新型コロナ禍を契機に広がった印象があるが、実際には政府や自治体では、地方の人口減少を解消する手段の1つとして、以前から注目されていたという。
「旅行以上移住未満」の手段がワーケーションだ。
2019年には和歌山県と長野県の呼びかけに応じるかたちで、「ワーケーション自治体協議会」が立ち上がり、全国で65の自治体が参加した。
だが、リモートワークの導入さえ進んでいない状況で企業の関心はあまり高くなかった。それを変えたのが、新型コロナ禍だ。自宅以外の場所でリモートワークを行う手法として、ワーケーションに光が当たるようになったのだ。
21年3月時点で参加自治体は175に増え、大手企業での導入も進んでいる。
休暇と仕事を混在させた時間を意識的に作り出す
長田さんはワーケーションの3つの特性を挙げている。
1 場所的特性 非日常の場にあること
2 時間的特性 勤務時間中に滞在すること
3 心理的特性 社員が自発的に選択すること
ワーケーションとは、「休暇と仕事を混在させた時間を意識的に作り出す」ことで、創造力=クリエイティビティを引き出す、一種の「仕掛け」だと説明している。
国内のリモートワークやワーケーションの先進的事例をいくつか紹介している。
日立製作所は1999年から在宅勤務制度を導入、21年4月からは在宅勤務を標準とした働き方に移行。ワーケーションについても、北海道知床の斜里町で「地域活性型テレワーク大全」を行い、実証を進めている。
参加したメンバーからは「ストレスから解放され、業務生産性が上った」「新しい価値観に出会え、自身の過去の働き方を見直すことができた」という声が出たという。
日本航空も早くからリモートワークやワーケーションを推進してきた企業だ。2014年に在宅制度のトライアルをスタートしてから改善を重ね、16年度には自宅以外の喫茶店などでの業務を認め、17年からは休暇期間中のリモートワークでの業務を認めるワーケーション制度を導入した。
役員も北海道斜里町、福岡県福岡市、沖縄県那覇市などのリゾート地で実際にワーケーションを体験し、役員会もリモートのオンライン会議で実施したという。
三菱地所は、地方で展開するコワーキングオフィスを活用した働き方を提唱。和歌山県の南紀白浜と長野県軽井沢でワーケーションオフィスを開業している。これらの施設は企業のプロジェクトチームの合宿などの短期利用から、中長期利用への対応も検討しているという。
日本の企業は、「本来、休暇を過ごす場所でいかに仕事を行うか」という視点でワーケーションが設計されているようだ、と長田さんは見ている。一方、海外企業は、考え方が異なる。ワーケーションを含めたリモートワークを日常とすることを前提に、ビジネスプロセスを設計しているというのだ。
ユニリーバの日本法人、ユニリーバ・ジャパンではリモートワークを無制限とし、上司に申請すれば理由を問わず、会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)で勤務できる。また、全国6つの自治体と連携し、その地域の施設を無料で利用できる仕組みを作っているという。