2016年に電力小売りの全面自由化が始まって6年、2017年にはガス小売りの全面自由化が始まり5年が経ったが、「大手から切り替えると安くなりますよ」と言って強引に勧誘したり、「マンション全体で切り替わっていますから」とダマしたりするケースが後を絶たない。
あまりに悪質なケースが後を絶たない、国民生活センターと消費者庁、経済産業省の3者が合同で2022年7月13日、「電力・ガス自由化をめぐるトラブル速報」を発表、警鐘を鳴らしている。
今年4月から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、18・19歳の若者は親の同意なく一人で契約できるようになる一方で、未成年者取消権を行使することができなくなった。国民生活センターなどでは、とくに一人暮らしの若者に注意を呼びかけている。
「解約には9800円の解約金と調達調整費を払わなければならない」
経済産業省によると、いずれも家庭用で、新電力が占める割合は2022年1月現在で24.5%(732社)、新ガスは16.7%(95社)になっている。ともにシェアは毎年増えているが、それにともない大手電力・ガス会社からの契約変更の勧誘をめぐるトラブル相談も急増しているようだ。
国民生活センターによると、新電力がらみの相談件数は昨年(2021年)1年間で7946件だったが、これは一昨年(5515件)の1.4倍のペースだ。新ガスに関しても、昨年1年間で4099件だったが、一昨年(1733件)の2.7倍のペースで増えている。
こんなトラブルのケースが多い。まず国民生活センターの寄せられた相談例を見ると――。
【事例1】電話で断ったのに、契約したことになっていた
「3か月前に契約中の電力会社を名乗る男性が来訪した。『アパート全体で電力のプランが変わる』と言われ、指示された通りにスマートフォンから申し込んだ。『後で本社から確認の電話があるので、変更を了承していると伝えるように』と言われ、男性は帰った。その後冷静になり、契約切替えの勧誘だったと気づいて、確認の電話できっぱりと断った。
しかし先日、電気料金の通知とガス料金のマイページができたとのメールが届いた。勧誘された電力会社に問い合わせると、昨年11月に契約していると言われたが、契約書面等も受け取っていない。電気とガスの契約を戻したい」(2022年2月)
【事例2】電気料金が安くなると言われて契約を切り替えたが、従前の2倍の金額になった
「昨年10月に自宅を訪問してきた事業者に電気の検針票を見せるように言われた。見せたところ、『当社と契約すれば電気料金が2割は安くなる』と言われたので、12月から供給開始の契約をした。先日、初めて請求書が届いたので確認すると、従前の電気料金は2万円程度だったのに約4万円で、安くなるどころか2倍の金額になり驚いた。解約しようと電力会社に電話をかけているがつながらない」(2022年2月)
【事例3】市場連動型プランとの説明を受けておらず、電気料金が高額になった
「大手電力会社に委託されたという事業者が自宅に来て、『電気料金が安くなりお得になる』と言われたので、契約内容の変更だと思い了承した。その後電気料金は1万円以下だったが、今月の請求額は3万6000円と高額だった。
そこで契約書面を確認すると、私が契約したのは大手電力会社とは別の電力会社の市場連動型プランであることが分かった。しかし、自宅に来た営業員からはそのような説明は全く聞いていなかった。解約するには9800円の解約金と調達調整費を払わなければならない。支払わなければいけないか」(2022年3月)
「市場連動型プラン」をめぐるトラブル増える
このように、最近増えているのが、「市場連動型プラン」をめぐるトラブルだ。電力会社が取引所から電気を仕入れる際の価格に連動して、電気料金が決まる仕組みだ。取引所の相場に応じて電気料金が上下するため、安くなる場合も高くなる場合もある。
経済産業省電力・ガス取引監視等委員会に寄せられた相談例をみると――。
【事例4】市場連動型の電気料金が、突然高額になった
「電気料金見直しのため、市場連動型の料金メニューを提供する電力会社に契約変更した。ところが、ある月から4万円程度だった電気料金が突然7万円の請求になり驚いた。電力会社に確認すると、調達調整費が高くなっているとのことだった。いつもは請求書だけしかみておらず、調達調整費については認識していなかったが、支払わなければならないのか」
【事例5】事業者から契約変更通知が来たが、電気料金が1.5倍になりそうだ
「契約中の電力会社から、契約約款の変更に関する通知が届いた。内容は燃料費の算定方法を市場価格連動型に変更するというものであった。これによると、今の市場価格の状況下では、実際に請求される電気料金が1.5倍になりそうだ。契約時にはそのような算定方法ではなく、安くなると思って契約したのに納得できない。契約内容の変更に応じなくてはいけないのか」
また、契約中の電力会社が突然事業から撤退することで、不安になる相談も多い。同じく、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会への相談事例から――。
【事例6】契約中の電力会社が事業を撤退する。電気を止められるのか
「現在契約中の電力会社から、電力事業を撤退するので電力会社を切り替えるようにとの案内を受け取ったが、どうすればよいのか。何もしなかった場合には、電気が止められたりするのか」
【事例7】大手電力会社から電力の供給を停止するという通知が届いた
「地元の大手電力会社の送電を担当している部門から、電力の供給を停止するという通知が届いた。現在契約している小売電気事業者の契約が廃止されるので、他の小売電気事業者に申し込む必要があると書かれている。通知に記載されている供給停止日までに切替えが間に合わなかった場合には、電気が止められてしまうのか」
さまざまな相談が寄せられているなか、国民生活センターや経済産業省は次のようにアドバイスしている。
(1)契約の意思がない場合ははっきりと断る。万が一、自分の意思にかかわらず契約手続が進められてしまった場合でも、事業者から確認の電話がくる場合があるので改めて伝える。それでも契約の書類が送られてきたらクーリング・オフ(無条件で解約の手続きを行うこと)の手続をする。
(2)大手電力・ガス会社を名乗って勧誘したり、マンション全体の供給契約が変わるかのような説明を行ったりするケースがあるため、相手の会社名、連絡先、契約条件をよく確認する。電力・ガス会社には、契約を締結するときに契約内容を記載した書面を交付する法的な義務がある。
(3)電気やガスの検針票を安易に見せない。検針票の記載情報は重要な個人情報だからだ。電気の検針システムが変わり、スマートメーターを設置すると電気料金が安くなるなどと説明されるケースもあるが、それだけで電気やガスの料金が安くなるわけではない。
(4)市場連動型の料金プランのトラブルが増えている。ある時点から急に電気料金が上がって驚くことがないよう、契約時には料金プランのメリット・デメリットを把握し、納得したうで契約をする。
(福田和郎)