存続か、廃止か...赤字ローカル線、見直し議論へ 「バス」などへの転換、運行と施設管理分ける「上下分離」...路線ごと最善の道探る

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   JRを中心にした赤字ローカル線のあり方を検討へ――。

   国土交通省の有識者検討会が地方鉄道の見直しに関する提言をまとめ、JR東日本は区間ごとの収支を初めて公表し、35路線66区間が赤字だと明らかにした。ローカル線をめぐる議論に火が付いたかたちで、国が主導して、地元自治体などを含む路線ごとの存廃論議が本格化する。

  • どうなる?赤字ローカル線(写真はイメージ)
    どうなる?赤字ローカル線(写真はイメージ)
  • どうなる?赤字ローカル線(写真はイメージ)

「廃止ありき」ではなく幅広く検討、JR各社への協力も求める

   国交省の有識者検討会は2022年7月25日、地方鉄道の見直しに関する提言をまとめた。提言では、利用者が少ない区間について、国は自治体か鉄道会社の求めに応じて「特定線区再構築協議会」(仮称)を設置し、バスなどへの転換を議論する仕組みの創設を打ち出している。

   協議対象となる路線の目安はJRの場合、輸送密度(1日1キロ当たりの平均旅客輸送人員数)が1000人未満で、複数の自治体や経済圏・生活圏にまたがるなど広域的な調整が必要な区間。ただ、通学路線などに配慮し、隣り合う駅間のピーク時1時間当たりの一方向の乗客数が最大500人を上回る場合は除外するとした。最長3年以内に結論を出す。

   協議では、「廃止ありき」の前提を置かず、利便性の向上策、駅舎や線路を自治体が所有する「上下分離」の導入、バスやバス高速輸送システム(BRT)への転換など、幅広く検討する。バスなどへの転換が決まった場合でも、JR各社には持続的な運行や、利便性確保に最大限協力するよう求めている。

   地方鉄道は沿線人口の減少で経営が悪化し、鉄道各社は赤字路線の廃線を含めた見直しを探っている。

   しかし、廃線を警戒する沿線自治体の反発で協議が進まないケースが多い。とくに、新型コロナウイルスの感染拡大で乗客減に歯止めが掛からない状態を受け、国交省はこれ以上の先送りはできないと判断。国が関与して協議を促すことにした。

JR東日本、地方路線35路線66区間の収支...20年度は約707億円の赤字

   この提言に歩調を合わせるかたちで、JR東日本は7月28日、利用客がとくに減っている地方路線35路線66区間(1日1キロあたりの平均利用者数=輸送密度が2000人未満)について、2019、20年度の収支を初めてまとめた。

   66区間は東北地方を中心にJR東管内のほぼ全域にまたがる。総延長は計2218.2キロで、ローカル線全体の35%を占める。

   全区間が赤字で、赤字の合計額は19年度が約693億円、20年度は約707億円。最も赤字幅が大きかったのは羽越線村上(新潟)―鶴岡(山形)間だ。19年度が約49億円、20年度は約53億円だった。

   また、運行コストに対して、運賃収入がどれだけあるかを示す路線ごとの「収支率」は、19年度が0.6~17.4%、20年度は0.5~14.5%だった。最も低い陸羽東線鳴子温泉(宮城)―最上(山形)間は、20年度は100円の収入を得るために2万2149円かかった計算だ。

   4月にJR西日本が同様の17路線30区間(12府県、総距離1359.9キロ)の収支を公表しており、2017~19年度平均で全区間が赤字。赤字総額は248億円、「収支率」は芸備線東城(広島県)―備後落合(同県)の0.4%が最も低かった。

   ローカル線の赤字の公表は、もともと経営資源が乏しい「三島会社」と呼ばれるJR北海道、四国、九州が先行していた。

   新幹線や大都市圏で稼ぐ東日本、西日本、東海の3社は公表していなかったが、東日本と西日本は、コロナ禍もあって、もはや路線を現状のまま維持するのは困難として、公表に踏み切った。

   ちなみに、三島会社については民営化の際、計1.3兆円の経営安定基金を用意し、運用益で赤字を補うとしていたが、低金利で資金計画が破綻し、北海道と四国は国から財政支援を受けている。

路線廃止の協議は難航必至。「上下分離」で維持を決めた地域も

   実際に路線廃止などに向けた協議は難航必至だ。

   たとえば、もともと赤字路線だったうえに、20年7月の豪雨で被災し、総延長の7割にあたる86.8キロが運休したままの肥薩線について、JR九州は流出した2本の鉄橋などの復旧費用を235億円と見積もり、廃線を含めた検討が必要との立場だ。

   一方、熊本県など地元自治体は、「SL人吉」など観光列車が人気だったことから、「廃線は地域の衰退に拍車をかける」と、鉄道としての復旧を求めている。3月に協議が始まり、「上下分離」案などが出ているが、話し合いは難航している。

   すでにBRT(バス高速輸送システム)に切り替えた区間では、コストが鉄道の1~2割に抑えられ、「駅」の増加などプラス面はあるものの、所要時間が倍増するなどで利用が落ち込む例もあり、消極的な自治体が少なくない。

   前向きに動き出したケースもある。

   福島県と新潟県を結ぶ只見線は、2011年の豪雨で橋が流出するなどの被害を受け、JR東日本は当初、不通区間のバスへの切り替えも検討したものの、最終的に県が線路や駅舎を保有。そして、運航をJRが請け負う「上下分離」で維持することが決まり、2022年10月に全線で運航を再開する見通しだ。

   また、JR富山港線(富山市)はLRT(次世代型路面電車)化し、経営主体も第三セクターに移し、利用を伸ばしている。

   さらに、滋賀県は、利用者だけでなく地域全体で広く支えようと、「地域公共交通を支える税制」の検討を進めている。沿線住民以外からも税として広く資金を集め、「上下分離」などの手法で路線を維持しようというものだ。

   過疎地ほど状況は厳しく、地元自治体の財政力も弱いだけに、こうした自治体の負担のあり方、そして、国とJRの支援を含め、路線ごとに最善の道を探っていくことになる。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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