生活保護...受給者減ったが、受給世帯増えた「謎」 そして、申請件数「再増加」の危機(鷲尾香一)

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   厚生労働省が8月3日に発表した2022年5月分の「生活保護非保護者調査」によると、生活保護申請件数が5か月ぶりに増加に転じ、前年同月比10.5%増と2ケタ増加となった。

   生活保護の受給者数は202万3336人で、前年同月比では1万6675人(0.8%)減少した。

   受給者数は数年にわたって前年同月比で減少を続けている。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年12月には207万1257人だったが、新型コロナの感染拡大中も減少を続け、2022年5月までに4万7921人(2.3%)減少したことになる。

  • 厚生労働省の2022年5月分「生活保護非保護者調査」に注目
    厚生労働省の2022年5月分「生活保護非保護者調査」に注目
  • 厚生労働省の2022年5月分「生活保護非保護者調査」に注目

単身世帯の受給が増加...顕著なのは「高齢者世帯」と「その他世帯」

   しかし、これで国民生活が改善していると、勘違いしてはいけない。

   生活保護の受給世帯数を見ると、163万9505世帯となり、前年同月比では914世帯(0.1%)増加している。

   受給世帯数は前年同月比で増加が続いている。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年12月の受給世帯数は163万7015世帯で、新型コロナの感染拡大中も増加を続け、2022年5月までに2490世帯(0.1%)増加したことになる=表1

   なぜ、受給者数が減少しているのに、受給世帯数が増加しているのか。

   生活保護は1世帯に何人同居していても、受給世帯数は1と計算するが、受給人数は1世帯の同居者数分も受給者にカウントする。

   つまり、受給者が減少しているのに、受給世帯数が増加しているということは、単身世帯の受給が増加していることにほかならない。これは、とくに高齢者世帯とその他世帯に顕著な傾向として表れている。

   過去には生活保護の代名詞は母子家庭だったが、現在では生活保護の代名詞は高齢者世帯だ。

   2019年12月に89万6348世帯だった高齢者の受給世帯数は、2022年5月には91万1340世帯と、1万4992世帯(1.7%)も増加した。生活保護受給世帯の55.8%が高齢者世帯となっているのだ。このうち、高齢者の単身世帯は84万1264世帯で全体の51.5%を占める。

   さらに、増加が著しいのがその他世帯だ。

   生活保護の世帯類型は、高齢者世帯、母子家庭世帯、障害者・傷病者世帯、その他世帯と分かれている。その他世帯は、高齢者、母子家庭、障害者・傷病者のいずれにも当てはまらない健常者で生活保護を受給している世帯となる。

   その他世帯は、2019年12月には24万2982世帯だったが、2022年5月に24万9565世帯と6583世帯(2.7%)増加している。その他世帯こそ、新型コロナの影響を受け、生活保護を受けないと、生きていけない状態に追い込まれた世帯と見ることができよう。

申請件数と保護開始世帯数、5月に2ケタ増に転じる

   いまや、生活保護の大きな問題は、年金だけでは生活できない高齢者世帯(とくに単身世帯)が増加の一途をたどっていることと、これまでは生活保護とは無縁だった人が、新型コロナの影響により、生活保護を受けなければならないほど、生活苦に陥っているという現実だ。

   さらに問題なのが、冒頭に述べたように、生活保護の申請件数の増加だ。新型コロナ感染拡大が始まった2020年1月以降、申請件数が前年同期比で減少したのは、2022年5月までの29か月で10か月しかない。

   また、生活保護は申請すれば、すべてが受理されて、保護が開始されるわけではない。審査により、ふるいにかけられる。したがって、申請件数が増加しても、必ず、保護開始世帯数が増加するわけではない。

   ところが、2020年1月の新型コロナ感染拡大以降、生活保護申請件数と保護開始世帯数の前年同月比はほとんど同様の動きをしている=表2

   これが意味するものは、新型コロナ対策として、政府が生活保護の受給要件を緩和したこともあるが、申請に対して、保護を開始しなければならない世帯が増加しているということだ。

   2022年に入って、1月から4月までの4か月間、申請件数と保護開始世帯数は前年同月比で減少を続けていた。ところが、5月に2ケタの増加に転じた。生活保護に頼らなければならない人が、再び増加していないことを願うばかりだ。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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