「本当にやりがいがある」「仕事が楽しくて、楽しくて仕方がない」......。
こんなふうに、毎日の仕事は「働く喜び」を実感しながら続けたいもの。
しかし、リクルートが2022年7月26日に発表した「2021年『働く喜び』結果報告」によると、女性は年齢を重ねるごとに、「働く喜び」がドンドン増していくのに、男性はその逆で、40代・50代で「働く喜び」が底を打ってしまうという。
いったい、なぜ? 働き盛りの40代・50代男性に何が起こっているのか。
男性も60代になると、「働く喜び」グーンとアップ
リクルートは2013年から毎年、全国の15歳~64歳の就業者を対象として、「働く人の喜び実感状況」に関する調査を行っており、今回(2021年分)は9回目。調査自体は2021年12月に行ったが、過去9回分のデータを集計し、分析結果をまとめて発表した。
調査結果によると、「働く喜び」を感じる度合いは、女性では年齢とともに増加する傾向があるのに、男性では年齢を重ねるほど減少して50代で底となる。そして、60代で再び増加に転じることがわかったという。
図表1が、「働く喜び」の実感状況の男女間の違いを表したグラフだ。調査では、「この1年間で『働く喜び』を感じていたかどうか」と聞き、「感じている」「やや感じている」から「やや感じていない」「感じていない」まで7段階で評価した。
その結果、「働く喜び」を感じている人(『やや感じている』以上)の割合は全体では43.3%だった。これを男女別・年代別でみると、男性では20代で43.4%が「感じている」と答えたのに対し、年齢を重ねるほど「働く喜び」が減少し、50代で36.4%と底をうつ。
そして、リタイア前後の60代になると48.6%と一気に増加して、20代より高くなるのが特徴だ。まるで、これまでの「仕事人」人生のさまざまなしがらみやストレスから解放されて、仕事の楽しさに目覚めたかのようだ=再び、図表1参照。
一方、女性では、「働く喜び」を感じる人が20代で41.1%、30代で42.3%......、50代で47.8%、60代で55.4%と、年齢を重ねるほどに増えていく。こちらは、しがらみやストレスの波がなく、仕事を覚えていくほどに喜びが増していくことがみてとれる=再び、図表1参照。
男性40・50代は上司・同僚を信頼できない?
この男女差は、いったいどういう理由からくるだろうか。そこで、「働く喜び」を実感するうえで重要な「モチベーションに影響する仕事の5要素」について調べた。「仕事の5要素」とはこれだ。
(1)求められるスキルの多様性(技能多様性)
(2)仕事全体の把握(タスク完結性)
(3)仕事の重要性の実感(タスク重要性)
(4)仕事の進め方の裁量(自律性)
(5)上司や同僚からのフィードバック(フィードバック=相手の行動に対して改善点や評価を伝え、軌道修正を促すこと)
たとえば、「フィードバック」では「上司や同僚から仕事についての適切な評価やアドバイスをもらえる」と問いかけをして、「そう思う」「どちらともいえない」「そう思わない」の3つから選んでもらった。
図表2は、その上司や同僚からの「フィードバック」があるかどうかを調べた男女別のグラフだ。これを見ると、男性では年齢を重ねるほどに低くなり、50代で35.1%と底を打った。50代男性が職場で最も「孤立」していることがわかる結果だ。一方、女性では各年代ともほぼ変わらず、上司や同僚から適切な評価やアドバイスをもらっていることがわかる。
さて、「フィードバック」では、上司や同僚と「信頼関係」を持てるかどうかも重要なカギになる。
図表3は、同僚との間の「信頼関係」を調べた男女別のグラフだ。「この職場の同僚は、信頼できる存在である」と問いかけをして、「あてはまる」「どちらともいえない」「あてはまらない」の3つから選んでもらった。これを見ると、男性では年齢を重ねるほどに同僚が信頼できなくなり、40代で45.9%と底を打っている。一方、女性では各年代ともほぼ変わらない「信頼関係」を築いていることがわかる。
男性ミドル・シニア層と「信じて頼り合う」大事に
図表4は、「モチベーションに影響する仕事の5要素」について、男性20代と50代の差をレーダーチャート(複数の項目のデータを正多角形上に表現したグラフ)でまとめた図だ。
これを見ると、50代男性は、20代男性に比べ、自由な裁量で仕事ができる「自律性」や、仕事の全体を把握できる「タスク完結性」では優れているが、同僚から信頼やアドバイスを得られる「フィードバック」の面でかなり劣っていることがわかる。
こうしたことが、男性の40代・50代に「働く喜び」の実感が低くなる原因のようだ。
調査を担当したリクルートHR統括編集長の藤井薫氏はこうコメントしている。
「心配なのが、男性の『働く喜び』の実感状況の実態です。年齢を重ねるほど『働く喜び』は減少し、40代・50代では約3人に1人しか、『働く喜び』を感じていない実態が見えてきたのです。
何が原因なのか。その要因を『モチベーションの要素』と『信頼関係』の観点から分析しました。(中略)上司や同僚からの『フィードバック』の実感値が、男性40代・50代に向けて低下。また、『この職場の同僚は、信頼できる存在であるか』『この職場の上司は、自分を信頼していると思うか』を聞いた『信頼関係』でも、『同僚、上司との信頼関係』は、いずれも男性40代で底となり、『働く喜び』の低さと連関する傾向となりました」
そして藤井氏は、
「男性40代・50代は、職場のネットワークから取り残され、『存在と信頼』において孤立しているようにも見えます。こうしたミドル・シニア層の孤立は、変革が不可避な日本社会や企業にとって、大きな課題です。(中略)変革推進のリーダーを『存在と信頼』のネットワークから孤立させない。職場でのエンゲージメント(組織に対する愛着親)のあり方が、『働く喜び』から問われているのではないでしょうか。信じて頼り合うのが信頼。まずはフラットに頼り合うことが、初めの一歩かもしれません」
と、訴えるのだった。
調査は、2021年12月22日~2021年12月27日、全国の15歳~64歳の就業者7699人にインターネットで行った。
(福田和郎)