中国の電気自動車(EV)メーカーBYDが日本の乗用車市場に進出することになった。
2023年1月にミドルサイズのSUV「ATTO3(アットスリー)」、23年中頃にコンパクトカー「DOLPHIN(ドルフィン)」、同年下半期に高級セダン「SEAL(シール)」を発売する。
いずれもBYDが本国で開発・生産する最新モデルだ。中国の自動車メーカーが日本で乗用車を本格的に発売するのは、ガソリンエンジン車、EVを問わず初めてとなる。
BYDジャパン社長「EVをいつ買うかだ」
BYDの日本法人「ビーワイディージャパン(BYDジャパン)」の劉学亮社長は2022年7月21日の記者会見で、「これからの時代はEVを買うか、買わないかではない。EVをいつ買うかだ。私たちはEVが身近な選択肢となる社会を実現していく」と述べた。
日本市場に投入する3モデルは、スペック的には日米欧のEVに劣らぬ性能を有している。日本のユーザーが中国製EVに抱きがちな「近距離移動用の廉価版」ではない。
アットスリーのリチウムイオン電池の容量は58.56KWhで、満充電で走る航続距離(WLTCモード)は485キロ。同様にドルフィンは44.9kWhで386キロと、58.56KWhで471キロの2仕様がある。
シールは後輪駆動と4輪駆動モデルがあり、いずれも82.56kWhで555キロ(シールのみ欧州のWLTPモード)と発表されている。スタイリングも日米欧のEVと比べ、大きな違和感はない。
日本での発売価格はいまのところ未定だが、BYDジャパンはアットスリーについて「11月には価格を公表したい。お客様から見て、手の届く価格帯、バリューフォーマネーのあるものにしたい」という。
アットスリーの中国での価格はどうか――。中国では補助金なしで約15万~17万元(約305万~345万円)で販売している。
日本でアットスリーと電池容量や航続距離が近いのは、日産「リーフe+」の60kWh、450キロ(WLTCモード)で、メーカー希望小売価格は422万円台から。電池容量40kWh、322キロ(同)のリーフは370万円台からある。
アットスリーの価格がライバルのリーフe+を下回るのはほぼ確実で、400万円を切るかどうか注目される。BYDが強気の戦略をとるなら、軽EVを除き国内最廉価のリーフ(370万円)に迫る可能性もある。
BYDのEVバス、日本でシェア7割以上
中国・広東省深圳に本社を構えるBYDは、1995年にバッテリーメーカーとして創業。その後、ITエレクトロニクスや自動車などに進出した。
とりわけ自動車では、バッテリーメーカーとして培った技術を生かし、モーターなど基幹部品を自社開発。中国政府が「新エネルギー車」(EV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)と呼ぶ分野では、9年連続で販売台数が中国国内1位となっている。2022年1~6月は世界で64万台を販売した。
BYDはこれまで、EVバスの販売に注力し、2019年時点で世界60か国の300都市に7万台超を販売した実績があるという。
日本でもBYDは15年以降、1回の満充電で200キロ走る小型バス、180キロ走る中型バス、220キロ走る大型バスなどを発売。京阪バス、阪急バス、富士急バスなど全国のバス会社がこれまでに65台採用している。日本全体のEVバスに占めるBYDの割合は7割以上という。
わずか65台でシェア7割というのは、日野自動車やいすゞ自動車がEVバスを生産していないためだが、日本の大手メーカーの出遅れ感は否めない。BYDのEVバスは、日本のバス会社にコストパフォーマンスの高さが支持されているという。
100店舗超の販売代理店、開設へ...テスラとは異なる戦略
BYDジャパンは日本進出に当たり、2025年末までに全国47都道府県に100店舗を超える販売代理店を開設するとも発表した。「乗用車の販売とアフターサービスを行うほか、急速充電器を設置する」という。
これはBYDが日本市場に根を下ろし、対面で本格的にEVを販売していく姿勢の表れだろう。全国に販売店を持たず、ネット販売が中心のテスラとは異なる戦略だ。
果たしてBYDは日本国内でEVバスに次ぎ、EV乗用車でも支持を得られるか。
クルマにうるさい日本の消費者が日本に本格参入する中国メーカーのEVをどう受け止めるのか。今後の反応が注目される。(ジャーナリスト 岩城諒)