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加速する概算要求基準の「形骸化」...青天井で例外多く 予算の肥大化防ぐ役割、まったく果たせず

   岸田文雄政権は2022年7月29日、2023年度当初予算の編成に向けて、各省庁が要求するルールを定めた「概算要求基準」を閣議了解した。

   各省庁の予算要求に一定の上限を設定することから「シーリング」(天井)とも呼ばれてきたが、時代とともに数多くの抜け穴が設けられ、予算の肥大化を防ぐ本来の役割は事実上、果たせていないかっこうだ。

  • 岸田政権は7月末、「概算要求基準」を閣議了解したが…
    岸田政権は7月末、「概算要求基準」を閣議了解したが…
  • 岸田政権は7月末、「概算要求基準」を閣議了解したが…

歳出総額10年続けて設定見送り...幅広い分野で「事項要求」が認められる事態

   概算要求基準は、池田勇人政権時代の1960年に始まった。無駄な予算要求を禁じ、財政の健全化を維持する狙いがあったが、予算規模が肥大化して、借金頼りの編成が常態化するに従い、徐々に形骸化していった。

   財務省幹部も「ないよりは当然、あった方がいい制度ではあるが、財政健全化のルールとしては欠点が多い」と認める。

   その形骸化ぶりを今回の概算要求基準で見てみよう。

   歳出総額は10年続けて設定が見送られた。この時点で「天井」の体をなしていない。

   各省庁の判断で使える「裁量的経費」を1割削減するよう求める一方で、削減額の3倍を「重点政策推進枠」として要求できる例外が設けられた。この推進枠だけで、4.4兆円規模になる見通しだ。 例外はこれだけではない。

   岸田首相が重視する「子育て」「脱炭素」に加え、「防衛」や「物価高対策」など幅広い分野で、要求段階では予算規模を示さなくてもいい「事項要求」を認めた。「青天井」の要求を容認したかたちだ。

21年度の税収総額70兆円なのに、歳出総額140兆円超だった

   なぜ、こうした事態になったのか。背景には、財政健全化に対する政府・与党のあきらめさえ見える。

   2021年度税収は過去最大を更新したものの、それでも税収総額は70兆円に届かない。これに対し、補正予算を含む21年度の歳出総額は140兆円を超える。歳出の半分程度も賄えていない計算だ。

   足りない分は国の借金である国債を発行しており、国の債務は雪だるま式に膨らみ、1000兆円の大台に達している。

「厳しい概算要求基準を設けて財政健全化を目指すより、与党側の顔を立てて大規模な予算を編成してやる方が政権にとってメリットが大きい。深刻な状況だ」

   霞が関からは、こんなため息が漏れる。

   今回同様、数多くの例外を認めた22年度当初予算は、概算要求の総額は110兆円を超え、4年連続で過去最大を更新した。これをもとに編成された当初予算の総額は106兆円と過去最大となった。

当初予算に盛り込めなかった要求、補正予算での措置が常態化

   問題は当初予算だけにとどまらない。

   年度途中の補正予算編成が定着した結果、霞が関では次年度の当初予算に盛り込めなかった要求内容を、補正予算で措置するのが常態化。従来は「裏技」といわれたが、いまや公然と行われるようになっている。予算肥大化の責任は政治だけではないのだ。

   与党内の力関係も、積極財政派に傾いている感がある。

   予算編成の前提となる「骨太の方針」(6月)の決定に際しても、自民党内の積極財政派と財政再建派が対立。積極財政派の後ろ盾だった故安倍晋三元首相の働きかけもあり、「状況に応じたマクロ経済政策の選択肢がゆがめられてはならない」という一文が加えられた。

   財政再建を大義名分に、必要な財政支出を渋ってはならないという意味だ。

   そこでとくに意識されているのが、防衛予算。概算要求基準の青天井化も防衛予算の増額を前提にしたもので、積極財政派の要求に政府側が屈したかたちになった。

   概算要求基準の形骸化は、赤字垂れ流しの現実から目をそらし、財政破綻に突き進む日本の象徴といえるかもしれない。(ジャーナリスト 白井俊郎)