本来の趣旨から逸脱...マニュライフ生命の「節税保険」、金融庁が業務改善命令 「旧経営陣の責任非常に重い」体質改善促す

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   過度に「節税効果」をうたって保険商品を販売したとして、外資系のマニュライフ生命保険(東京)が、金融庁から、保険業法に基づく業務改善命令を受けた。

   表向きは中小企業の事業リスクに備える生命保険だが、実態は「課税逃れ」だとして、金融庁は保険の本来の趣旨から逸脱し、悪質性が高いと判断した。節税保険を巡る行政処分は初めて。

  • マニュライフ生命保険に改善命令を出した金融庁
    マニュライフ生命保険に改善命令を出した金融庁
  • マニュライフ生命保険に改善命令を出した金融庁

節税のからくりに「名義変更プラン」

   節税保険は2010年代後半に登場し、大手生保を含めて販売が急拡大し、18年ごろには生命保険の新規契約の3割程度(約8000億円)を占めたと推計される。支払った保険料は会社の経費として損金算入できるので、課税額を抑えられる――こんなセールストークが中小企業経営者に響いたわけだ。

   しかし、こうした節税をことさら強調する勧誘は問題だとして、国税庁が2019年に保険料の損金算入方法を大幅に見直す通達を出し、抑え込みにかかったことから、生保各社は販売を停止した。

   ところが、マニュライフを含む一部の業者は、別の抜け穴を探し、新たな商品を投入した。それが「名義変更プラン」と呼ばれるもので、当初は法人名義で多額の死亡保険金をかけた契約を結び、数年後に経営者らの個人名義に変更(譲渡)できるのが特徴だ。

   その節税のからくりは次のようなものだ。

   マニュライフ生命が販売したのは、当初は返戻金が極端に低く、その後に跳ね上がるという設計になっている商品だ。

   これは、譲渡価格が「その時点の解約返戻金に相当する額」とするルールを悪用したもの。役員は割安で譲渡された後に一定期間保険料を払い、返戻金が増えたところで解約すれば、高額の解約返戻金を得られ、しかも「一時所得」として、通常の役員報酬と比べ、税負担を抑えられるのだ。

   もちろん、金融庁は、経営陣の死亡など万一の事態に備えた商品として認可したのだが、名義変更率が不自然に高くなったため、調査した。すると、名義変更を前提とする「指南書」を一部の生保が作成し、代理店が販売を拡大していたことが分かった。マニュライフ生命は、「退職金などで会社の資産を移すよりもお得だ」などと勧誘していたという。

「抜け道」防ぐルール変更後も、「抜け穴つく」販売実態

   国税庁は2021年6月に、名義変更をして税負担を減らす「抜け道」を防ぐルールに変更した。しかし金融庁は、マニュライフ生命がその後も、年金保険という別の保険を同様の節税手法で販売するなど、「悪質性が極めて高い事例」もあったとしている。

   実は、こうした抜け穴をつく販売は他社でもあった。

   金融庁は2022年2月、エヌエヌ生命保険、SOMPOひまわり生命保険、FWD生命保険の3社にも節税保険の販売実態の説明を求める報告徴求命令を出している。マニュライフ生命の悪質性が群を抜いていたことから、1社だけ立ち入り検査を実施し、今回、処分を課した。

   どれほど悪質だったのか。発表によると、金融庁が険各社に節税保険を扱わないよう求めるなか、マニュライフ生命は前最高経営責任者(CEO)ら旧経営陣が主導して名義変更プランを開発、推進していたという。

   金融庁は「コンプライアンス(法令順守)を軽視する企業風土があると考えられる」としたうえで、「旧経営陣の責任は非常に重い」と結論づけた。商品開発から販売まで、組織性も認められることから、同社に経営責任の明確化や経営管理体制の抜本的な強化を求め、8月15日までに改善計画を提出するよう求めた。

   実は、すでに退社して別の保険会社に移籍した旧経営幹部もおり、「逃げ得」となりかねないことから、あえて組織的問題点を指摘し、業界として体質改善に本気で取り組むよう促したかたちだ。

金融庁と国税庁の連携強化...商品性を厳格審査

   今回、もう一つ突きつけられた課題は、縦割り行政の打破だ。

   名義変更プランもそうだが、これまで、金融庁が認可した保険が「節税保険」としてヒットした後に、国税庁が「問題がある」として課税ルールを見直すことがままあった。

   今回、金融庁は処分発表と併せ、国税庁との連携強化も打ち出した。今後は保険商品の認可段階で国税庁と情報を共有し、商品性に問題がないか厳格に審査する考えだ。

   ただ、保険市場が縮小するなかで業界内の競争は激化しており、「法規制のギリギリを狙った商品開発はなくならないだろう」(大手紙経済部デスク)との声も聞こえる。(ジャーナリスト 白井俊郎)

姉妹サイト