模倣が難しいテスラ
このほかに2人を比較して、常に模倣者に悩まされ続けたジョブズに対し、マスクのビジネスはそう簡単には真似ができない、と指摘している。
テスラのEVは模倣するのが極めて独自なもので、カーディーラーを通さずにネット販売するという手法も大手自動車メーカーでは難しいものだ。
2020年、テスラは時価総額でトヨタを抜き、自動車メーカーとして時価総額世界一の企業になった。テスラは創業以来赤字を続けており、黒字になったのはこの年が初めてだったという。
なぜ、この年に成功したのか?
1つ目の理由は、2016年に発表された3万5000ドルのEV「モデル3」の人気だ。予約だけで45万台もの注文が入り、工場は生産に忙殺された。
もう1つは新型コロナウイルス。マスクは、2019年にネット販売だけに切り替えた。コロナで全米のディーラーが閉鎖されるなか、ネット販売で「モデル3」が次々と売れたのだ。
もう1つの強さとして、竹内さんは「垂直統合型」というテスラのあり方を挙げている。
どういうことかというと、既存の大手自動車メーカーは下請け企業にパーツを納品してもらう「水平分業型」だが、テスラはEV用モーターからバッテリーパック、車体に至るまで多くの内製しているのだ。
最後の章で「イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか」という質問に答えて、「今の時代の波はマスクにある」と書いている。
ジョブズが会社を最優先したのに対し、マスクは人類と地球のことを最優先にしている姿勢を評価している。マスクは「EVが普及するならテスラが潰れてもかまわない」と、テスラが保有するEV関連特許約200件を無償で公開した。
「マスクは、未来を決めて、今を作っている」と冒頭で引用したが、「世界中のクルマがEVになっている」という未来を、マスクは「決め打ち」した。
スペースXでも「火星に人類を移住させる」という未来を決め打ちした。そして、今の時代はジョブズよりマスクを求めている、と結論づけている。
(渡辺淳悦)
「イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか」
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