円高への巻き戻しが新たな日本経済の逆風に
ペロシ・ショックによって、リスクのあるドルを売って円を買う動きが進み、ドル円相場は急速に円高に傾いている。この円高への巻き戻しが日本経済のリスクになると指摘するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内登英氏のリポート「台湾地政学リスクの高まりで金融市場は動揺:リスク回避の円買いも復活」(8月2日付)によると、この先、円は3つの要因によってさらに巻き戻しが続くという。
(1)FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げペースの鈍化の可能性を織り込んだ米国の長期金利低下による日米長期金利差縮小。
(2)米国を中心にした世界経済の減速という経済リスクの高まり。
(3)台湾情勢など地政学リスクの高まり。
そして、円の巻き戻しが新たな日本経済の逆風になるというのだ。
「円の巻き戻しが進むことで、日本経済に逆風となっている物価高懸念が多少緩和される、というプラス面はある。しかし、為替市場が円高に振れれば、株価が大きく下落しやすくなるだろう」
「日経平均株価などを構成する企業には大規模な輸出企業が多く含まれていることから、円安によって円換算での輸出代金が増えることで、株価にはプラスに働く。逆に円高が進めば、株価には逆風である。年初来、米国の株価の下落幅と比べると、日本の株価の下落が小幅であったのは、円安進行の影響が大きいだろう」
しかし、これからは円高が新たな危機になる。
「今後、上記3つの要因から円の巻き戻しが進む場合、株価の下落率は米国などと比べても大きくなるだろう。それは国内での消費者心理に悪影響を及ぼす可能性が考えられる。物価高を促す大きな懸念材料であった円安進行が一巡しても、今度は、円の巻き戻しが新たな日本経済の逆風となっていくのである」
(福田和郎)