「専制」と戦い、「民主主義」守るペロシ氏
今回のペロシ・ショック、政治外交の専門家やエコノミストはどう見ているのだろうか。
日本経済新聞(8月2日付)「ペロシ米下院議長、台湾を訪問 中国軍は演習開始」という記事につくThink欄の「ひと口解説」コーナーでは、東京大学大学院総合文化研究科の川島真教授(アジア政治外交史)は、
「昨今、中国は蔡英文政権を独立志向政権だと見なし、議員であれ、企業であれ、蔡政権に接近する者を全て批判する。アメリカとしては従来からの『一つの中国政策』を変えているつもりはない。だが中国は強く反対し、軍事的威圧を高め、台湾の官公庁に対するサイバー攻撃などを行った」
と、早くも習近平政権が強硬策に出ていると指摘。つづけて、
「中国国内では対台湾強硬論が高まっており、台湾政策も今後一層厳しくなろう。振り返れば、2010年前習政権形成期には日本の尖閣『国有化』があり、それが政権の保守化を加速させた。今回のことにより3期目の習政権が一層保守化するか、内政への影響が懸念される」
と、今後の習近平政権の出方に注目した。
同欄では、笹川平和財団上席研究員の渡部恒雄氏は、
「中国人民解放軍は台湾周辺での軍事演習を開始したようですが、これがどこまでエスカレートして米中の軍事的緊張を高めるのかが懸念されます。習近平主席は、秋の共産党大会に向けて米中関係を不要に悪化させたくはないと考えているとは思いますが、弱腰批判も避けたいはずです」
と、強気に出ざるを得ない事情を説明。
「米国内での党派対立は激しく、もしペロシ下院議長が訪台を断念、あるいは延期したとすれば、共和党側からの激しい批判が予想されていましたが、米中の軍事的緊張が高まれば、(中略)バイデン政権が稚拙なハンドリングで不要な軍事的緊張を高めたとして批判するのではないでしょうか」
と、バイデン政権にとっても正念場であると説明した。
同欄では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が「民主主義」に対するペロシ議長の熱い思いをこう説明した。
「『議会使節団の台湾訪問は台湾の躍動する民主主義に対する米国の変わらない関与を示す』。ペロシ議長は台湾訪問に際して、こんな声明を発表しました。下院議長としては25年ぶりの台湾訪問ですが、1997年のギングリッジ議長はわずか3時間の滞在。台湾で2泊し蔡英文総統ら台湾首脳と面談する今回のペロシ議長の訪問は重みが違います。『世界が専制と民主主義の対立に直面するなか、台湾の人たちへの米国の連帯はかつてなく重要だ』とペロシ議長。多くの米国人が異論の差し挟みようがない内容であり、外交の方向をも規定するでしょう」
同欄では、上智大学総合グローバル学部の前嶋和弘教授(アメリカ現代政治)も、ペロシ議長のやむにやまれぬ行動をこう評価した。
「『脅せばアメリカは引っ込める』という前例を作ってしまうので、さすがにこの段階で訪台を見送るのはあり得なかったかと思います。(中略)アメリカの外交政策では予算権限(power of purse)を握っている議会の役割も非常に重要。下院議長ほか議会の外交安全保障の担当各委員会の委員長がそろうアジア各国をめぐる今回の歴訪で、中国の武力進出が懸念される台湾を外す選択も、やはりあり得なかったのかとも思います」