あなたはいったい時給いくらで働いているか、気にかけたことはあるだろうか?
時給がなんと8000円を超える企業があることが、転職のためのジョブマーケット・プラットフォーム「Open Work」を運営するOpen Work働きがい研究所が2022年7月27日に発表した「上場企業の時給ランキング2022」でわかった。
トップ30までの企業の平均時給額は5755円で、東京都の最低賃金(1041円、2021年10月改定)の5.5倍という結果になった。どんな働き方をしたら、こんなに稼げるのか。
トップ30のうち22社が時給5000円超え
「Open Work」は、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官庁など職場の情報を投稿する、国内最大規模のクチコミサイト(会員数は約450万人、2021年12月時点)だ。「待遇の満足度」「20代成長環境」「人材の長期育成」など8つの項目に0~10点で答えて評価、コメントする仕組みだ。
今回の調査で「時給」を算出した方法はこうだ。まず上場企業の有価証券報告書から平均年収と各社の標準労働時間を調べる。そのデータに、「Open Work」にクチコミで投稿されている平均残業時間(月間)を加えて、年間勤務時間を推計する。年収をその年間勤務時間で割って、「時給」を計算したのだ。
社員の生のクチコミ情報を使って、企業による公開情報だけでは知ることが難しい、リアルな「時給」を算出したわけだ。
その結果、1位になったのは中堅・中小企業を対象にM&A仲介事業を行うM&Aキャピタルパートナーズ(時給8810円)だった。以下2位には、大手不動産のヒューリック(8627円)、3位に総合商社の三菱商事(7664円)、4位に同伊藤忠商事(7350円)、5位に同三井物産(7119円)。
つづいて、6位に精密機器メーカーのキーエンス(6848年)、7位に総合商社の住友商事(6254円)、8位に大手不動産の三菱地所(5990円)、9位に同三井不動産(5846円)、10位にM&A(合併と買収)仲介会社のストライク(5808円)となった=図表参照。
トップ10のうち総合商社が4社、大手不動産が3社ランクイン。そして、トップ30のうち22社が時給5000円を超え、トップ30の平均時給は5755円となった。
1位M&Aキャピタルパートナーズの働き方は?
1位になった時給8810円、平均年収2688万円のM&Aキャピタルパートナーズ(東京都千代田区)では、どんな働き方をしているのだろうか。
社員のクチコミを見ると、中小企業などの後継者不足によって事業承継の需要が高まり、業績を拡大していることがわかる。
所定労働時間が長めの8時間であることに加え、平均残業時間が94.3時間とトップ30の中で最も多いにもかかわらず、2000万円台後半の高い平均年収が時給アップに貢献している。ただ、個々人の売り上げによってかなりの差があるようだ。社員のクチコミを見ていこう。
M&Aキャピタルパートナーズ「年収3000万円。賞与はほとんどが売上に比例する。その計算方法も明確であるため、自分の賞与額がどれくらいになるかも概ね計算できる。売り上げの配分は、案件当事者以外の者も売上配分の決定プロセスに関与するため、公平性・納得性のある売上配分が行われる。サポートした人間(上司)より、案件開拓した人間(部下)が評価される風土である。数年経てば、1人で案件を仕上げられるようになるため、売上の大半が自身に配分される」(コンサルタント、男性)
M&Aキャピタルパートナーズ「年収4200万円:基本給(月)40万円、賞与(年)3000万円。営業活動がすべてで、案件をより多く成約させれば年齢に関わらず数千万以上の高収入が可能。競合他社と比べると営業ができなかった時の風当たりは強くないように感じるが、周りとの収入の差が歴然なのでプレッシャーは感じる」(営業、男性)
M&Aキャピタルパートナーズ「年収600万円:基本給(月)35万円、賞与(年)180万円。給与制度は、成約がゼロの場合は420万円ほど。あとはチームや個人での成約率に準じて。評価制度は良くも悪くも成約率がすべて。ここについては徹底している」(M&Aアドバイザー、男性)
「ほぼ年功序列」から「成果主義」の会社まで
ほかの時給トップ10の企業の働き方はどうなのか。社員のクチコミを見ると――。
ヒューリック「年収950万円:基本給(月)35万円、残業代(月)15万円、賞与(年)350万円。新卒社員は10年程度横並びで昇級・昇格している。個人のパフォーマンスはほとんど影響しない。収入に関してはベースよりもボーナスに偏っており、若手に関しては40%前後をボーナスが占めている。部署によってボーナスに若干の差があるが、大きな差はない」(不動産、男性)
三菱商事「年収1300万円。総合職は新卒入社するとスタッフ職からスタートし、ほぼ同年代同時期に管理職(プロフェッショナル職)になれる。管理職になった段階で月給、賞与は1.5倍くらいに上がる。賞与は年2回支給で、夏のボーナスは基本賞与に加えて業績連動ボーナス、個人の成績加算金が加算される。後者2つによるボーナスの個人差は大きい」(マネージャー、女性)
伊藤忠商事「年収1500万円。ボーナスの割合が高く、さらに個人の成績によりボーナス金額が変わる傾向にある。30歳を前にして年収は1000万円を超える。最近は株式報酬制度なども充実し始めており、実際の収入ベースではプラスアルファで50~100万円程度の影響があるのが実態だと思われる」(営業、男性)
三井物産「年収1700万円:基本給(月)100万円、賞与(年)500万円。全般に高いが、ボーナスは所属部門の組織業績により年収200万円程度の差はつく。また、海外赴任期間中は別途高額手当があり、地域によっては交通費や子女教育費も会社負担なので、個人の持ち出しはほぼ無いケースもある」(マネージャー、男性)
キーエンス「年収2000万円。基本給は少ないが、毎月業績給と年4回のボーナスがあり、全体としてはかなりの額になる。人事考課によってプラスマイナス10%くらいは変わるが、会社の利益増減による業績給の振れ幅のほうが大きいため、人事考課のことは全然気にならなくなる」(開発、男性)
住友商事「年収1500万円。年功序列が色濃く残っているが、真面目に取り組んでいれば評価をしてもらえる。いち早く成長したい人には向かないが、コツコツタイプの人には向いている」(基幹職、女性)
三菱地所「年収1200万円。給与は基本的に年功序列。賞与は長期安定支給を基本としており、おおよそ給与の8か月分」(総合職、男性)
三井不動産「年収1200万円。完全な年功序列である。給与以外の手当も多く、待遇には満足している。評価制度は定性評価(=パフォーマンスを数字で表すことができないものに対する評価)であり、評価の軸がいまいちわからないところがある。評価の違いがどのように給与やボーナスに反映されているかもわかりづらい」(主事、女性)
ストライク「年収1300万円:基本給(月)50万円、賞与(年)700万円。年俸ベースで、当初1年間は前職給料を踏襲し支給されるが、基本的には年俸500万円~700万円程度。役職によって月収ベースはアップ。あくまでもインセンティブがキー」(アドバイザリー、男性)
見てきたように、「実力主義」の企業もあれば、「横並び年功序列」の企業もある。人間は花と同様に「置かれた場所で咲きなさい」という言葉もある。みんなそれぞれ置かれた職場で懸命に働いていることがうかがえる。
調査は2019年1月~2022年7月、Open Workにリポート回答が5件以上ある上場企業1953社を対象に、有価証券報告書とリポートのクチコミを集計して「時給」を算出した。
(福田和郎)