パナソニックホールディングス(HD)が、電気自動車(EV)用電池工場を米国に新設する。投資額は最大で約40億ドル(約5500億円)にも達する計画だ。エンジン車からEVへ移行が進む中で、基幹部品である電池の需要拡大は必然だが、すでに中韓勢がしのぎを削っており、競争に敗れれば「悪夢」の再来になりかねない。
テスラと共同運営「ギガファクトリー」での苦い経験
パナソニックHDは2022年7月14日、米中部カンザス州に電池の新工場を設けると発表した。
米国に車載電池工場をつくるのは、2017年に稼働を始めた中西部ネバダ州にある「ギガファクトリー」に続き2か所目。新工場の生産能力や稼働開始時期などの詳細は未公表だが、4000人を新規に雇用する巨大工場になる。
電池事業子会社パナソニックエナジーの只信一生社長は7月14日の声明で「自動車業界での電動化が進む中、その需要に対応するために米国での車載電池生産を拡大することは非常に重要です」と述べている。
だが、パナソニックHDは電池事業で苦労してきた。
ギガファクトリーには「振り回されてきた」といっていい。振り返ると、ギガファクトリーは、何かと話題を振りまくイーロン・マスク氏が率いる米EV専業メーカーのテスラと共同運営する工場であり、テスラに独占的に電池を供給する前提でスタートした。
ところが、テスラにとって初のEV量産だったこともあって、EV工場の生産ラインでトラブルが続出し、電池を供給するギガファクトリーの稼働も計画を下回っていた。パナソニックHDのテスラ向け電池事業が黒字化したのは、2021年3月期になってからだ。
競争力強化のため、中韓は国を挙げて支援
その間、世界は脱炭素に向けて大きく舵を切り、主要国の政府は今後数十年かけてEVの比率を高める計画を相次いで表明した。
これに前後して、これまでエンジン車を手掛けてきた世界の大手自動車メーカーがEVに注力する計画を打ち出した。当然、EVの性能を左右する車載電池の需要も高まっていく。
半導体や薄型パネルと同様に、車載電池も高い技術を駆使した巨大設備で大量生産することで、性能とコスト競争力を高めることができる。そのためにメーカーは継続的に巨額の資金を投じる必要があり、「国家戦略」と位置付ける中国や韓国は国を挙げて支援している。
現在、世界首位は中国のCATLであり、韓国LGグループなど中韓勢が上位を占める中、パナソニックHDも何とかその一角に踏みとどまっている状況だ。技術的な差異も薄れてきているとされる。
こうして車載電池を巡る経営環境が厳しくなる中、パナソニックHDが次の工場の建設地としてカンザス州を選んだのは、地元からの補助金以外にも理由がある。そこから近いテキサス州で、テスラが2022年4月に新たな巨大EV工場をオープンしたからだ。
今回発表された工場新設のニュースリリースには具体的な販売先は全く記されていないが、パナソニックHDが念頭に置いているのはテスラだろう。
中韓からの調達&自主開発に乗り出したテスラ
だが、当のテスラは中韓メーカーからも電池の調達を始めており、さらに自主開発にまで乗り出した。ツイッターの買収を表明して撤回するような、常識を超越した行動を取るマスク氏が、パナソニックHDを今後も調達先として考えるか否かは未知数だ。
パナソニックHDの大型投資と言えば、プラズマテレビの生産に突き進んだ結果、2012年3月期に7000億円を超える巨額の最終赤字に落ち込んだ一件が記憶に新しい。
新たな収益の柱にしようと社運を懸けている車載電池ではあるが、需要拡大は確実であっても収益事業として失敗すれば、それこそプラズマテレビの二の舞になりかねない。
今回の投資決定は、パナソニックHDの今後の浮沈に関わるほど重大だ。
(ジャーナリスト 済田経夫)