先日、ヨーロッパを中心に患者が増えているウイルス感染症「サル痘」の患者が日本国内で初めて確認されたと報じられました。少し前、オミクロン株のBA.2.75――通称、「ケンタウロス」と呼ばれる変異ウイルス患者の国内初感染が発表されたばかりとあって、不安が募っています。
新型コロナウイルスの発生から3度目の夏を迎え、ようやく「通常の夏休み」を期待していたところに突然襲いかかってきた第7波。連日のように感染者数が最多記録を更新するなか、「BA.2.75はBA.5より怖い」といった報道も...。それにしてもなぜ、BA.2.75は「ケンタウロス」と名付けられたのでしょうか? 名付け親は...? 背景を追ってみました。
海外メディア「BA.5よりも感染力が強くて手ごわい」
第7波の襲来はあっという間でした。個人的に「異変」を感じたのは7月18日の「海の日」の後。3連休が明けたら、家族や社員本人の陽性判明や濃厚接触認定の報告、さらに発熱など体調不良の報告が相次いだのです!
これまでに経験したことがない感染の勢いに、「日本中で同じようなことが起きているのでは?」と恐れていたら、感染者数が倍々ゲームのように増えていき、とうとう1週間の新規感染者数が主要7カ国(G7)の中で最多となってしまいました。
Japan now has the most daily COVID cases of any other nation
(日本は今や、ほかのどの国よりも1日のコロナ感染者が多い:Nikkei Asia)
日本よりもひと足早く「第7波」を経験していた欧米諸国での感染状況が「多少落ち着いた」こともあり、今は日本のほうが他国をしのぐ勢いで感染が広がっていると報じられています。恐ろしいのが「より獰猛な」変異ウイルスの出現。「ケンタウロス」と呼ばれるBA.2.75が話題になっています。
An emerging subvariant of Omicron, BA.2.7, nicknamed "Centaurus" was identified in Japan
(「ケンタウロス」と呼ばれる新しいオミクロン株の派生株BA.2.75が日本で確認された)
an emerging subvariant:新しい派生株
BA2.75は2022年5月にインドで初めて確認され、海外メディアでは「BA.5よりも感染力が強くて手ごわい」と話題になっていました。
それでも、これまでも「今度の変異株は史上最強だ」「これまでのどのウイルスよりも強力」といった「前評判」を聞かされて感覚が麻痺していたこともあり、BA.2.75の感染力の強さよりも「ビーエーツー、セブンティーファイブ」という読み方が「まるでスノーボードの技の名前みたい」と話題にしていた程度でした。
ところが、世の中には私と同じように「また、『史上最強』の変異株?」とへきえきしていた人がいたのでしょうか。気がついたらBA2.75に「ケンタウロス」という強烈な「あだ名」がついていたのです!
I have just named BA.2.75 variant after a galaxy.
(私はBA.2.75変異株を星座にちなんで名づけることにした。
Its new name is Centaurus strain.
(新しい名前はケンタウロス株だ)
Get used to it.
(この名前に慣れてくれ)
その名付け親とされるのは、コロナに関して発信を続けている「一般人」。ツイッターで発表した「あだ名」をメディアが使うようになって定着したとされます。「BA.2.75の脅威に関心を示してほしい」という狙いで名付けたようですが、「コロナ慣れ」をしていた社会に一気に広がったことからも、「注意喚起」の目的はみごとに果たしたといえるでしょう。
キャッチーな名前で、警戒心を抱かせる効果?
それにしてもなぜ、「ケンタウロス」の「あだ名」が世界中で広がったのでしょうか?
「ケンタウロス」はギリシャ神話に登場する半人半獣の種族の名前で、上半身が人間で下半身が馬のような姿をしている想像上の生きものです。映画の「ハリー・ポッター」やボッティチェリの絵画などでその姿を目にした方もいると思いますが、「暴力や獣性を象徴する」という解釈があります。
今回、「名付け親」はBA.2.75の「獰猛さ」を表すために「ケンタウロス」の名を使ったと解釈されているそうですが、これほどまでに広がった理由を海外メディアは次のように解説しています。
まず、「人々は数字や文字よりもニックネームの方が理解しやすい」という指摘です。「BA」や「ベータ」のような文字や「5」や「2.75」といった数字は記憶に残りにくいうえに数多く存在するため、今の世界は「the different subvariants is a mess」(いろんな変異株が混乱している状態)だと伝えています。
さらに、「ケンタウロス」のように「キャッチーな名前」は注目を集めやすく、統一のイメージを抱きやすい、と分析しています。たとえば、「半人半獣のケンタウロス」からは、BA2.75の「獰猛さ」や「異質さ」を思い浮かべるため、「今度の変異株はこれまでとは違うようだ」と、警戒心を抱かせる効果があるというのです。
「BA2.75が日本に上陸した!」という表現よりも、「ケンタウロスが日本に上陸した!」という方が「大変だ!」と危機感が伝わるというのですが、日本人にとって「ケンタウロス」はなじみが薄いので、「ゴジラ襲来!」の方がインパクトありそうです。
ちなみに、「ケンタウロス」とほぼ同時期に日本での感染が確認された「サル痘」は、研究用のサルから初めて発見されたことに由来するそうですが、「サルが感染源」という意味ではないとのこと。名前が与える影響力の大きさを改めて意識した次第です。
それでは、「今週のニュースな英語」は「name after」(~にちなんで名付ける)を使った表現を紹介します。
This building was named after the first American president.
(この建物はアメリカ初代大統領にちなんで名付けられた)
Covid-19 were named after the country where they were first discovered.
(新型コロナは、最初に発見された国の名前をつけていた)
She was named after a famous musician.
(彼女は、有名な音楽家にちなんで名付けられた)
海外メディアによると、専門家は「『ケンタウロス』ではなく『BA2.75』を使え」と取り消しに必死のようですが、「民意」をつかんだ「素人」のネーミングに軍配は上がっているようです。
(井津川倫子)