「雨降って地固まる」という言葉がある。パワハラと言われることを恐れて部下を叱れない上司が増えているなか、シッカリ叱って部下の成長を促し、職場を活性化させている管理職も多い。
マーケティングリサーチのアスマーク(東京都渋谷区)が2022年7月22日、「上司に聞いた『叱責』に関する実態調査」を発表、「叱る上司」と「叱れない上司」の悩みに迫った。
これは、2022年7月19日付J-CASTニュース会社ウォッチ「職場の『叱責』問題、部下たちは成長のために叱られたい?...だが、8割が嫌がる『叱られ方』シチュエーションとは」という記事の「PART2:上司編」である。
上司のあなた、あるいは部下のあなた、それぞれ上手な「叱り方」「叱られ方」の参考にしてはいかが。
「部下の成長のために叱ることが必要」多数派なのに...
調査は、30代から50代の管理職の男女495人を対象に行われたものだ。
まず、全員に「あなたは部下を叱ることがあるか」と聞くと、「よくある」「時々ある」を合わせると、30代男性で43.0%、40代男性で37.0%、30代女性で34.0%、40代女性で30.7%。男女とも年代が若いほうが、叱る経験が多くなる傾向が見られる=図表1参照。
第一線の現場の「兄貴分」「姉貴分」として若い一般社員を接する機会が多いため、若手のミスに気づきにくいこともあるようだ。
これに対して50代になると、男女とも「よくある」がなくなり、「時々ある」が男性で23.0%、女性で24.6%と、叱る機会がぐっと減ってくる。人間として丸くなる年齢に差し掛かっていることもあるが、部長職などにつき現場から離れていることも大きいだろう。
いずれにしろ、各年代とも「あまりない」「ない」を合わせて、叱らない傾向の人のほうが多数派であることは注目に値する=図表1参照。
次に、「部下の成長のためには、叱ることも必要だと思うか」と聞くと、年代・性別を問わず、「そう思う」「ややそう思う」が多数派を占めた=図表2参照。前問で叱る経験が少なめだった50代男女でも同様で、叱ることが上司の役割の1つであるという共通認識が世代を問わずに存在しているようだ。
30代男性の5割以上、「パワハラだと思われそうで指導しづらい」
それなのになぜ、「叱る上司」が少数派なのだろうか。
そこで、「部下にパワハラだと思われそうで、指導しづらいと感じることはあるか」と聞いてみた。すると、「よくある」「時々ある」を合わせて、「パワハラだと思われそうで指導しづらい」と感じる人が各年代で3割を超えた=図表3参照。とくに30代男性では52.0%と5割以上。30代女性も48.0%、40代女性も47.7%と半数近くに達した。
パワハラだと思われそうで指導しづらいと感じることは「ない」という回答も多数ある一方で、パワハラだと思われそうで叱るのを躊躇してしまう人がかなりいることがわかった。自信をもって部下をスムーズに指導するためには、パワハラになる叱り方・ならない叱り方の知識やスキルを身につけることが求められる。
さらに、叱ることに対する不安心理を探るために、「『あの時、叱らなければよかった』と実際に思ったケースはあるか」と聞いた。全体的に「ない」という回答が多数派だが、「ある」と答えた人が一番多かったのは50代女性で33.3%、次に40代女性の31.8%と続いた=図表4参照。
40、50代の女性には「叱らなければよかった」と後悔するケースがやや多い傾向がみられた。しかし、興味深いことに、後悔することは「ない」と答えた人で一番多かったのは30代女性(76.0%)でもある=図表4参照。みんな、ときには失敗もしながら「叱り方」を模索して、管理職として成長を続けていくようだ。
叱り方のポイント...部長・課長・主任で違う理由
6割近くの人が「部下の成長のためには、叱ることが必要だ」と答えたが、いったい、部下を叱る時、何に気を付けているのだろうか。「特に気をつけていること」の上位3つを聞いた(複数回答)。
「なぜ叱っているのか理由を明確に伝える」(75.8%)がダントツの1位となり、「叱る理由が理不尽になっていないかどうか考える」(51.9%)、「周囲に人がいる状態で叱らない」(41.8%)、「部下を別の人と比べて叱らない」(38.2%)と続いた=図表5参照。
感情的に叱ったりせず、指導の内容をしっかり伝えたうえで、部下に「成長してほしい」と願いながら、叱責をしているという様子が浮かんでくる。
ここで興味深いのは、叱り方で重視している点に、役職ごとの違いがあることだ。図表5の右にある折れ線グラフは、部長クラス、課長・次長クラス、係長・主任クラスのそれぞれの割合を示している。
これを見ると、部長クラスでは「周囲に人がいる状態で叱らない」が他の役職と比べて高いのが特徴だ。これは、「部長に叱られている」ことの重みを考えての若手に対する配慮だろう。
一方、課長・次長クラスでは「長時間にわたって叱らない」ことに心を砕いていることがわかる。これは、第一線の責任者として周囲に人がいる職場で叱責する場合もあることを考えてのことと思われる。
また、係長・主任クラスが「叱る理由の理不尽さや不明確さ」を気にする意識が高いのは、「兄貴分」「姉貴分」として、常に若手の側に立っているからだろう=図表5参照。
それぞれの管理職が、叱る内容だけでなく、シチュエーションにも気を配る姿勢を見せているわけだ。「叱らない上司」が半数以上いるなか、「叱られる部下」は幸せといってもいいかもしれない。
調査を行ったアスマークの担当者もこうコメントしている。
「叱ることは部下の成長のために必要という意見が多数であるなか、叱ることが少ない人や指導しづらいと考える人も一定数みられました。指導が必要とわかっていても、パワハラといわれる不安や、叱り方がわからないことで思うように指導できていないといった悩みもあると思います。正しい叱り方・パワハラにならない叱り方の知識を身につけていくことが上司・部下、 ひいては組織全体の成長につながるのではないでしょうか」
調査は2022年6月21日~6月28日、30代から50代の管理職の男女495人を対象にインターネットで聞いた。
(福田和郎)