ハワイアンジュエリーブランドの「PUA ALLY(プアアリ)」は、デザインを一から起こし、材料となる地金素材、制作、仕上げまでを一貫して行う完全オリジナルのハンドメイドジュエリーだ。恵比寿の一等地に、ショップと工房を併せ持つ専門店とジュエリースクールを展開する。
コロナ禍で、リモートワークが広く普及するなど、働き方が大きく変化する中で、対面での接客がメインの仕事であるショップ店員は、「根本からその働き方や仕事への向き合い方を変えざるを得なかった」と、「PUA ALLY」を運営する株式会社ジェイボックスの代表、松尾琢磨さんは話す。
アフターコロナの時代を迎えるにあたって、これから活躍するのはどんな人材だろう? 企業として、どのように人材を育成していけばよいのだろう? コロナ禍における接客業の変化、今後活躍する人材や期待する人材、そして人材育成について聞いた。
ライブコマースには「ボケ」と「ツッコミ」が必要
――コロナ禍で店舗での接客にどのような変化がありましたか?
松尾琢磨さん「対面で会わずに、お客様とのコミュニケーションを取ることを模索しました。以前はお店で直接お客様とお話しすることが、店舗スタッフにとって重要なことでした。今は、売り方が変わったというか、伝え方が変わった時代です。デジタル技術については、お客さんの知識も上がっていますから、『Zoomはちょっとできないです』と言った瞬間に、その会社はダメな会社として、お客様に認識されてしまいます。
何をデジタル化して、しないほうがいいか、という選択も大切です。これが社内でも部署によって全然違う答えなんですね。特に店舗で直接お客様と関わるスタッフは、お客様とのつながりがあってこその販売だから、例えば指輪のクオリティやデザインより、自分たちの接客が一番大切だと思っています。ですから、オンラインでの問い合わせにも、効率化したチャットボットで対応するのではなく、Zoomなどでなるべく相手の顔色や間を見て話せるようにすることが大事だと考えています。
具体的に接客で変わったことといえば、マスクをしていると目だけでは表情や感情がなかなか伝わらないので、なるべく声を張ってオーバーリアクションで対応するようにしています。特に画面上では、それが大切です」
――コロナ禍でオンラインショッピングやライブコマースが急拡大しました。御社では、そのような取り組みやSNSの活用などをされていますか。
松尾さん「中国ではライブコマースがかなり普及しているそうですが、本当に訓練していないとカメラに向かって話すこと自体が難しいですね。こちらからは、お客様の顔が見えないのですが、レンズの向こう側のお客様に向かってしゃべらなければいけない。
さらに、ライブをする側も、一人で一生懸命カメラに向かって、『この商品は?』と説明しても、手応えが伝わってくるわけでもなく、なかなか販売につながりにくいですね。MCや商品の説明をする人がいて、『ボケ』と『ツッコミ』のような存在が必要なんです」
店舗スタッフも画面で伝える力が求められている
――御社もライブコマースやインスタライブなどをやってみたのですか?
松尾さん「弊社でもインスタライブをやってみましたが、やること自体を告知するのがまず大変でした。インスタライブをやることはできるのですが、やればいいだけではありません。もともと、顧客リストがしっかりあるとか、Facebookの友達が多いとか、前段階でお客様とのつながりを持っていないと、たとえライブをやったとしても、うまくいかないですね。弊社は、ハワイアンジュエリーブランドの中ではトップクラスでお客様とのつながりは多いと思いますが、それでも結果的には100人くらいが見に来てくれるくらいです」
――かなり、ご苦労されたようですね。
松尾さん「ライブも1回20~30分やっていると、回数を重ねるうちに腕も上がってくるんですね。そうなると、あらかじめシナリオを書いてやらなければダメだったということに気づいてくる。YouTuberのスゴさを改めて感じました。もしかしたら、店舗スタッフもデジタル画面で物事を伝える力を、これからは学ぶ必要があるのかもしれないですね。
ライブコマースやインスタにしても、やっぱり主役は若い人たちだと思います。アフターコロナの会社がどうあるべきかといえば、若い世代にどんどん権限を委譲していく必要があるのではないでしょうか。50歳の自分がいいと思うところと、20代の女性たちがいいと思うところは全然違います。自社のお客様のターゲットと同じ世代の人たちの声に耳を傾け、権限を委譲していかないといけないと思いました。
みんな最初は、コロナ禍がすぐ終わって元に戻ると思っていた。けれど、結果的にこれだけ長引いて苦しかったなか、我慢していたこの2年で、その状況に合わせて便利なものもたくさん出てきました。それは、コロナ禍が終わっても別に捨てる必要はないですよね。ジュエリーで言えば、ECサイトの写真や動画のクオリティを上げていったり、お客様にとって使いやすいように変えていったりしないといけないと思います」
ショップ店員に必要なスキルとは?
――御社の社員研修は、コロナ禍以前と比べて、どこか変わりましたか?
松尾さん「以前は、マナー研修など、対面で直接学ぶ機会がありましたが、コロナ禍では、なるべく直接会わないで学ばなければいけないので、Zoomなどオンラインミーティングのアプリを利用するようになりました。それも、いろいろあるアプリの中で、どれがいいのかを判断して、学んでいかなければなりません」
――御社のスタッフは、どのようにZoomの使い方を覚えられたのですか?
松尾さん「特別にZoomの研修をやったわけではなく、必要に迫られて、各自で覚えていったという感じですね。最初の頃と使い勝手も変わっていっていますので、使いながら覚えていきました」
――アフターコロナ時代に、ショップ店員に欠かせない新たなスキルはありますか。
松尾さん「ショップ店員に欠かせないスキルは、デジタルでもアナログでも同じですね。お客様の気持ちをしっかり理解し、自分の気持ちを伝える力です。ただ、デジタルでは、スマホやパソコンの画角に対してのバランスや美しさがあるので、どのようにすればキレイに見えるか、照明や音声も含めて、映像を作ることに関する知識が必要となってくると感じました。
デジタルでもアナログを超えていく伝え方を学んでいき、そういうシステムに合わせて自分を成長させていかなければいけないですし、会社としても投資していかないといけないですね。今後は、社内にスタジオを用意するといったことも必要になってくるかもしれません」
<アフターコロナの接客業とは? 求められるのは新しいことに敏感な感性と柔軟性【後編】/ジェイボックス代表・松尾琢磨さんに聞く>に続きます。
(いわき あゆこ)
【プロフィール】
松尾 琢磨(まつお・たくま)
株式会社ジェイボックス代表取締役
ラヴァーグジュエリースクール学校長
ハワイアンジュエリー「プアアリ」MasterEngraver
1999年ラヴァーグジュエリースクール設立、2004年日本でも数少ないエングレーバー(彫刻師)として工房とショップを併設した日本でも最大クラスのハワイアンジュエリーブランドプアアリを設立。また、多くのジュエリーブランドのコンサルティングも行っている。
1972年生まれ。