「やっぱり映画は大スクリーン、大音響で見なきゃね」
コロナ禍のなか、元気がなかった映画館に活気が戻ってきた。帝国データバンクが2022年7月20日に発表した「『映画館業界』動向」によると、コロナ禍とNetflixやHuluなどの動画配信サービスのダブルパンチを受けて、どん底状態だった映画館が、昨年(2021年)は売り上げが前年比2割増に伸ばし、回復の道に光明が差してきた。
「鬼滅の刃」「竜とそばかすの姫」の大ヒットが追い風
キーワードは「リアル」......。「絶対に映画館で見たい!」気持ちにさせる工夫なのだ。
帝国データバンクによると、エンターテイメント業界のマーケティング調査を行う「GEM Partners」(東京都港区)が昨年(2021年)7月に行った調査では、同じ値段・同時配信の場合、生活者が映画館と動画配信サービスのどちらを選ぶか調査したところ、ほぼすべてのジャンルで「絶対に映画館で観たい」が上回る結果となった。
コロナ禍のなか、NetflixやHulu、Amazonプライムビデオといった定額制の動画配信サービスが定着。総務省の調査では、ダウンロード(DL)型の映画配信サービスコンテンツの支出額は、コロナ禍で大幅に増加し、2021年度は6年前の4倍超に拡大。タブレットなどで視聴可能な手軽さと、外出しないでエンターテイメントを楽しみたい層を獲得した。
しかし、映画館側は大画面や音響など、映画館に足を運んでしか見られない「メリット」を改めて追求したのだった。
TOHOシネマズやイオンシネマなどを中心とした2021年度の国内映画館市場(事業者売上高ベース)は、前年比約20%増の2100億円となる見通しとなった=図表1参照。過去10年で初めて3000億円を超えた2019年度からは6割ほどの 水準にとどまるものの、過去最低に市場が縮小した2020年度(1783億円)を約400億円上回る予想で、コロナによる影響は一服感が出ている。
映画館では、時短営業や休業を余儀なくされ、売り上げが立たない期間が長く続いた。大型スクリーンによるスケールメリットが生かせない営業を強いられたことが減収につながった。
だが一方で、2020年後半からは興行収入が400億円を突破した「鬼滅の刃 無限列車編」のメガヒットを皮切りに、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2021年3 月公開)、 「竜とそばかすの姫」(同7月)などアニメ映画のヒットを追い風に、ファミリー層や若年層を中心に映画館への「回帰」の動きがみられた。
「3Dリアル体験」座席の高額チケット代で稼ぐ
また、座席の間引き営業なども徐々に緩和・撤廃されたことも重なり、1スクリーン当たりの入場者数も前年の2.9万人から3.2 万人と増加した。
動画配信サービスでは味わえない3Dなど「リアル」体験を前面に押し出したことも大きい。大手シネコンでは1回あたりの映画チケット代は反対に上昇を続け、2021年度の料金(平均1410 円) は過去最高となった。
4DX(ユナイテッドシネマ)や IMAX(TOHOシネマズ)など、入場料が高額な体感型シートが人気を集めたことで、全体の料金水準を押し上げた=図表2参照。動画配信サービスの拡大で、一度は「映画館離れ」が懸念されたものの、大画面による圧倒的な迫力や音響効果が功を奏し、来場機会の減少を付加価値による客単価の上昇で補う構造へと変化しているのだ。
2022年度もさらに市場の回復が進みそうだ。
本物の戦闘機を数十機も使って撮影したというトム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」(5月公開)が7月に入っても多くのシネコンで上映を続けている。
また、人気コミックを原作に、女子高校生たちがアウトドアを楽しむ姿をゆるやかに描いたアニメ映画「ゆるキャン△」(7月公開)など話題作の興行成績も好調だ。
7月末には恐竜が大都会で暴れ回る「ジュラシックワールド/新たなる支配者」が控えている。これこそ、動画配信サービスでは決して経験できない、映画館が誇る「生のリアル」のド迫力だろう。
(福田和郎)