民事と刑事で分かれる司法判断...問われる東電と国の責任分担のあり方

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   東京電力福島第一原子力発電所の事故をめぐる東電の株主代表訴訟で、勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長ら元役員4人に13兆3210億円の支払いを命じる判決が言い渡された。金額の大きさにも驚かされるが、事故の予見は可能だったと判断し、旧経営陣の過失を認める初の司法判断になった。

   ただ、1か月前には、この事故で避難した住民らが国相手に起こした集団訴訟で、最高裁が事故を防ぐ時間がなかったとして国の賠償責任を否定する判断をしている。

   大手紙の論調も、こうした経緯と原発へのスタンスの違いから、評価が真二つに割れた。

  • 東京電力の株主代表訴訟、旧経営陣に13兆円超の支払い命令
    東京電力の株主代表訴訟、旧経営陣に13兆円超の支払い命令
  • 東京電力の株主代表訴訟、旧経営陣に13兆円超の支払い命令

裁判の争点は「長期評価」への旧経営陣の対応

   株主代表訴訟は、株主48人が事故によって東電が被った損害22兆円余り(被災者への損害賠償や廃炉、除染の費用など)を賠償するよう、旧経営陣5人に求めたもの。2022年7月13日に東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は勝俣氏、武藤氏ら4人に計13兆円余りの支払いを命じた。

   裁判の最大の争点は、2002年に年に政府の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」に対する旧経営陣の対応だった。原告は、巨大津波が第一原発を襲う可能性を旧経営陣は事前に認識していたにもかかわらず、安全対策を怠ったと主張。

   判決は、この長期評価をもとに(1)東電子会社が2008年に津波予測を15.7メートルと計算していたこと(2)当時、原発部門の副本部長だった武藤氏がその妥当性の検討を土木学会に委ねて対策を講じなかったこと(3)勝俣氏らが09年2月に14メートル程度の津波の可能性の報告を受けていたことなどを指摘。主要な建屋や機器の浸水対策(水密化)をすれば事故は回避でき、その工事は2年ほどで完了できた――などとして、対策を怠ったと事故の因果関係を認めた。

   これより約1か月前の6月17日、この原発事故で避難した住民らが起こした4件の集団訴訟で、最高裁は国の賠償責任を否定する判決を出した。2002年の「長期評価」に基づく巨大津波試算の合理性は認めたものの、予見可能性について明確な判断を避けたうえで、実際の地震は想定を大きく上回るもので、国が東電に対策を命じて防潮堤が設けられたとしても、津波による浸水は防げなかった――などとした。

   これとは別に、勝俣元会長ら3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された刑事裁判では一審は無罪だった。「長期評価」について、複数の専門家のあいだで疑問が生じていたことから、信頼性を否定したものだ。「合理的な疑い」が残らない立証を求める刑事裁判は、民事裁判より立証のハードルが高いということだろう。

   (ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏に性暴力被害をうけたとして訴えた件で、刑事事件としては容疑不十分で不起訴になったが、民事では332万円の賠償を命じた判決が確定しているように、民事と掲示の「ねじれ」はよくあることだ)

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