「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE 8」では、「仕事にやりがいを感じられない」と悩む新入社員のケースを取り上げます。
「こんな地味な仕事をするために入社したんじゃないのに!」
【上司(部長)】新入社員のBさん、最近元気がないけど、大丈夫か?
【Aさん(課長)】実は、人事からも新入社員研修時の懸念事項として報告もありまして。Bさんが同期たちに「最近、仕事にやりがいを感じられない。こんな地味な仕事をするために入社したんじゃない」と話していたというのです。
【上司】えっ! そんなこと言ってるのか...。
【Aさん】はい...。Bさんは結構悩んでいた様子らしく、人事は、Bさんの悩みが他の新入社員にも伝播して、モチベーション低下や離職にでもつながらないかと、心配していました。
【上司】そうか...。それにしても、今どきの若者は辛抱が足りないんじゃないか。まだ1年目で「地味な仕事で、やりがいがない」なんて、早すぎだろう。まず目の前の仕事がきちんとできるようになって、一人前というものだ。甘やかしすぎるのは、どうかと思うが。
【Aさん】そうですね。私もそうは思うのですが...。
【上司】君が直属の上司なんだから、本人から話をよく聞いたうえで、言い聞かせておいてくれないか。
【Aさん】はあ。そうですね...。(うーん、困った。どうしたものかな~。)
新入社員のBさんが、「やりがいが感じられない」と同期入社の仲間に打ち明けていたとのこと。それを聞いた人事担当者も、心配しています。Bさんの直属上司のA課長が対応することになりましたが、どうしたものか悩んでいます。あなたなら、どうしますか?
「その悩みは新入社員なら誰でも感じるものだ」と諭してよいのか?
このCASEの部長のように、ベテラン会社員ほど「今どきの若者は辛抱が足りない」と感じることも少なくないでしょう。若手の頃は誰もが一度や二度は感じる悩みで、それを乗り越えて成長していくものだ、と。
そこで、A課長も、Bさんに次のように諭すことが考えられます。
「Bさんの気持ちは、わからないではない。でも、新入社員の頃に、誰しもそうした悩みを感じるもの。仕事は地味で単調に感じるかもしれないが、若手のうちは基礎を学ぶことが大事だ。乗り越えれば、次第に仕事の本当の面白さもわかってくる。もう少し頑張っていこう」
この説明には説得力があり、良識的と感じることでしょう。
このCASEの部長が言うように、入社早々に地味な仕事を嫌うような発言は甘え以外の何物でもない。どんな仕事にも、地道で基礎的な作業が不可欠。その先に、華々しい第一線の仕事ができるようになっていくもの。そう考えれば、A課長のアドバイスは妥当なものと思えます。
しかし、新入社員の発言を頭から否定的に捉えてしまうと、単なる現実知らずにしか見えなくなってしまいます。そうした思い込みと決めつけは、危険です。
今の若者は「就社」でなく「就職」で入社し、成長の機会に敏感
まず、上司自身の価値観を顧みてみましょう。
組織人として仕事を続けていくためには、一定の忍耐は不可欠だと考えがちではないでしょうか。それは、一心に頑張ってきたことで、徐々に給与や職位が上がってきたからでしょう。
少し厳しい見方をすると、その認識はすでに時代遅れと言わざるを得ません。日本的雇用と言われる年功序列・終身雇用が崩れてきているからです。今の若手社員は、人生100年時代を生きる世代。職業人生が60年から80年にも渡るのですから、1つの企業で一生働き続けるイメージは持っていません。
また、若手世代は、学校でのキャリア教育もしっかり受けてきます。自分の将来のキャリア希望を思案したうえで、入社しています。かつての新入社員が「就社」意識であったのに対し、今の新入社員は「就職」意識に変わっているのです。
優秀な若手ほど自分がこの会社で、選んだ仕事のプロフェショナルとして成長できるか否かが大事。市場価値を持った人材へできるだけ早く成長したいと、望んでいるのです。
よって、新入社員が今の仕事を通じてやりがいのある仕事が実現できるという「成長予感」を持てるよう、マネジメントする必要があるのです。
本人の希望を聞き、中堅社員のサポートのもと、「花形仕事」を体験させる
こう考えるなら、まずは本人悩みと希望をしっかり聞ききることです。入社動機である本人にとっての「花形仕事」に着目しましょう。本人に成長イメージを持たせるために、その仕事を早期に一度体験させるのです。
もちろん、本人に任せきりにして取り返しのつかない失敗や、お客様への迷惑があってはいけません。そこで、中堅社員をサポート役につけ、側面的に支援しながら体験をさせるのです。
成功例もあります。
ある食品製造・販売企業では、これまでの慣例だった新入社員に設備清掃や後片付けなど下積み作業からスタートさせる教育方法を改め、まず憧れである花形製品の製造とお客様への提供を体験させるように変えました。
入社早々に、最前線の仕事のやりがいを十分に体験させたのです。そのうえで、そのための準備や仕込みや後片付けなどのバックヤード仕事を任せたところ、新入社員のモチベーションが向上し、定着率も大きくアップしたというのです。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力~『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。