「皆が円安になると思えば、円安がどんどん進む」
さて、今後どんどん加速しそうな円安を止めるにはどうしたらよいか。よく日米の金利差が円安をひき起こすといわれるが、実はそんな単純なものではなく、不思議なメカニズムがあると指摘するのが、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏のリポート「140円台に向かう投機の円安 ~それを止める方法~」(7月15日付)では、「米長期金利では説明できない円安」というグラフを示している(図表参照)。
もし、ドル円レートが米長期金利と連動するなら、数式上、理論値である図表の中央にある真っ直ぐの青い横線を描くはずだ。しかし、実際にはオレンジのギザギザ線で激しく動き、円安が急上昇していく。ということは、米長期金利以外の別の要因が、円安に作用しており、今後は米長期金利が上昇しなくても円安が進んでいく可能性が濃厚だという。
円安に向かう引力とは何なのか――。熊野氏はある経済理論を紹介する。
「かつて、為替レートを資産価格の変化として捉える研究者がいた。米国のドーンブッシュ教授(ルディガー・ドーンブッシュ・マサチューセッツ工科大学教授。国際経済学、1942~2002年)である。(中略)教授は、為替変動には資産価格で起こる合理的バブルの動きが反映して、自己実現的な変動が起こると主張した。わかりやすく言えば、皆が円安になると思えば、円安が進むという趨勢ができるということだ。為替のオーバーシューティングモデル(為替レートの目標着弾点〈市場均衡点〉を誤って行き過ぎてしまうこと)という理論だ」
このドーンブッシュ理論が言わんとすることは、円安トレンドが続くと、米長期金利では説明し切れない円安が発生する、という点だ。為替レートは資産価格だから、「合理的バブル」が起こりうるというのだ。現在、そのバブルに群がっているのが「投機筋」である。熊野氏はこう続ける。
「為替市場では、日本政府が為替介入に動けないだろうという予想が強まっている。こうした思惑があるとき、自己実現的円安は起こる。また、日銀の黒田総裁は、本心ではさらなる円安を望んでいるに違いないという市場観測が強まると進む。ドルを買って円を売り続けると、じきにドル高・円安が進んでそこで差益が稼げるという投機的思惑が、この自己実現的円安を後押しする」