夫の年収が1500万円以上でも、妻の半数以上は働く
久我さんが注目したのは、夫の収入が高いと、妻は働く必要がないから就業率が下がるという「ダグラス・有沢の法則」(1930年代発見の経済原則)が成り立つかどうかだった。
「夫の年収によらず妻の労働力率は全体的に上昇傾向にあり、夫が高収入の世帯でも多くの妻が働くようになっている。
例えば、夫の年収が1500万円以上の世帯では、2014年から2021年にかけて、妻の労働力率は48.8%から56.9%へ(プラス8.1ポイント)、妻が就業者の世帯数は20万世帯から33万世帯(プラス13万世帯)へと増えている。(中略)夫の年収が700万円以上の世帯に広げて見ると、妻の労働力率は17.4%から21.5%へ(プラス4.1ポイント)、世帯数は78万世帯から118万世帯(プラス40万世帯)へと増えており、このうち約3割がパワーカップルである」
つまり、コロナ禍にもかかわらず、「働く妻」が増えたことが、パワーカップルの増加につながっている、というわけだ。
パワーカップルは現在のところ、共働き世帯の約2%に過ぎないが、久我さんは、男女とも若い世代の意識改革がパワーカップル増加を後押ししている、と指摘する。
「共働きがスタンダードになる中で、若い世代ほど仕事と家庭のどちらかを選ぶのではなく、仕事も結婚も子どもを持つことも望む女性が増えている。また、30代以下の世代は、男子も家庭科が必修科目となった世代であり、(中略)これまでの世代と比べて女性が男性のサポートに回るのでなく、男女が肩を並べて社会で活躍することをごく普通のこととして捉える意識が格段に強まっているだろう。そして、それは女性だけでなく男性にも言えることだ」
そして、経済の活性化のためにパワーカップルの購買力に期待する。中でも注目するのは女性の消費意欲が旺盛な点だ。図表2は、年収別の男女の消費性向を示したグラフだが、年収800万円までは女性の購買意欲が高いことがわかる。
だから久我さんは、こう結んでいる。
「年収階級別に男女の消費性向を比べると、女性のほうが男性より高い傾向がある。これまでもさまざまなマーケティングの文脈で言われてきた通り、女性のほうが男性より消費意欲が旺盛だ。
つまり、女性が働き続けられる環境が整備され、その収入が増えれば個人消費の底上げにつながる。また、夫婦単位で見ても、現役世代の世帯収入が増えれば消費に結びつきやすい。仕事と家庭を両立するための就労環境の整備と言うと、消費施策としては遠回りのようだが、その効果への期待は大きい」