新たなリスク要因「イタリア危機」の行方
そして、ユーロ安が進行すると貿易収支の赤字が拡大して、ますます経済が減速するというジレンマに陥ると指摘するが、三菱UFJリサーチ&コンサルティング副主任研究員の土田陽介氏だ。
土田氏のリポート「急速に進むユーロ安~今後もユーロ安が続く見込み」(7月15日付)によると、ユーロ圏の経常収支は2022年3月に30.4億ユーロの赤字に転じ、翌4月には57.6憶ユーロに赤字が膨らんだ=図表3参照。
これは、経常収支の黒字を支えてきた貿易収支が赤字に転じたことが理由だが、主な取引相手国別にみると、米国向けには安定した黒字だ。その一方で、ロシア向けと中国向けの赤字が拡大していることがわかる=図表4参照。
これはどういうわけか。土田氏はこう説明する。
「ロシア向けに赤字が拡大している理由には、輸出が減少している一方で輸入がそれほど減っていないことがある。輸入が減らないのは、(ロシア産の原油や天然ガスなどの)化石燃料の価格が高騰しているためである。他方で、中国向けに赤字が拡大している理由としては、輸出がそれほど増えていない一方で輸入が増加していることがある。(中略)特に原材料が増加しており、電気自動車(EV)などの生産に必要な原材料の輸入が増えたと推察される」
さらに、ユーロ安に歯止めをかけにくい理由がEUにはある。EUにはさまざまな経済事情を抱えた国が多いからだ。
「イタリアやスペイン、ギリシャといった重債務国を抱える以上、ECB(欧州中央銀行)はFRB(米連邦準備制度理事会)のようなピッチで利上げをすることができない。そのため、金利差の観点からは、ユーロ安に歯止めがかかる展望は描きにくい。また、実需の観点からも、ロシアとの関係悪化に端を発したエネルギー高の影響から、今後も貿易赤字の定着が予想される」
「急増する対中貿易赤字も、中国からの原材料輸入の急増がEVシフトなどEUの目指す脱炭素化と密接に関わっている可能性がある。(中略)対中貿易赤字は高止まりとなるか、増加基調で推移する。そうなれば、ユーロ圏全体の貿易赤字が拡大するとともに、それがユーロ安を定着させる要因になると考えられる」
と、「お先真っ暗」な状態が続きそうだ。
そこに新たなリスク要因が加わった。「イタリア危機」だ。
物価高騰が深刻なイタリアで、なんとか経済を支えてきた元ECB(欧州中央銀行)総裁でもあるマリオ・ドラギ首相が7月14日、連立政権内の分裂を理由に辞任する意向を発表した。もしドラギ政権が崩壊すれば、次の総選挙では左派・右派双方のポピュリズム政党が躍進することが予想され、イタリア政局は混迷に陥るとみられる。
土田氏はこう結んでいる。
「足元では、イタリアの政権崩壊リスクもユーロ安の材料になる。ドラギ現政権が崩壊して総選挙となれば、イタリアの長期金利が拡大し、ユーロが売られやすくなるだろう」
(福田和郎)