プーチン大統領の逆襲で加速、「欧州経済の減速」 エコノミストが指摘「エネルギー不足」「ユーロ安」「イタリア危機」...今冬を乗り越えられるか?

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脱炭素の旗振り役ドイツ、石炭火力で急場しのぎ

   ドイツといえば、長らくユーロ圏経済を牽引してきた存在だ。そのドイツの惨状を第一生命経済研究所主席エコノミストの田中理氏が、リポート「欧州に迫るガス危機」(7月13日付)の中で報告する。

   まず、ロシアの天然ガス供給締め付けによって、どれだけエネルギー価格が高騰しているか――。

「ノルドストリーム経由のガス供給が完全に止まると、冬場の需要期にガス不足に陥る恐れがある。ガスの配給制を開始する必要に迫られ、エネルギー集約型産業向けのガス供給の縮小で、経済活動に大幅なブレーキが掛かる。その場合、需給逼迫によるガス価格の一段の高騰も加わり、欧州は景気後退に陥る可能性が高い」

   オランダTFTの天然ガス先物価格は7月上旬から価格が急騰、1年前の5倍以上に跳ね上がった=図表1参照

(図表1)原油、天然ガス価格の推移(第一生命経済研究所の作成)
(図表1)原油、天然ガス価格の推移(第一生命経済研究所の作成)

   これを受けて、欧州各国の電力料金も高騰している。

   欧州各国はロシアに代わるガスの調達先として、米国や中東諸国などからLNG(液化天然ガス)の輸入を拡大しているが、割高なスポット市場での調達を余儀なくされるうえ、大きな問題があった。それは――。

「ドイツや中東欧諸国の多くはLNGの陸揚げ港を持たない。ドイツは陸揚げ港の新設を計画しているが、完成には数年を要する。(中略)当面のガス不足に対処するため、ドイツでは石炭火力の利用拡大で急場しのぎをしている」

   脱炭素の旗振り役だったドイツが、温暖化ガスを大量に排出する石炭火力に回帰せざるを得なくなったわけだ。そして、ドイツの窮状をこう報告する。

「ドイツでは暖房の設定温度の引き下げや街灯の間引き点灯など、冬場に向けて様々な(天然ガスの)節約措置が検討されている。(中略)本格的なガス不足に直面した場合、家庭向けや生活に密接した産業向けにガスを優先的に振り向ける配給制が開始される公算が大きい」
「現在、3段階の緊急ガス計画の2段階目にあたる『非常警報』を発令している。ロシアからのガス供給が止まった場合、これを3段階目の『緊急事態』に引き上げ、政府主導で事態の対処に当たる。配給制の開始により、化学や鉄鋼などエネルギー集約型産業向けのガス供給が絞られ、それが他の産業にも波及し、経済活動に大幅なブレーキが掛かる」
エネルギー危機に陥ったドイツ
エネルギー危機に陥ったドイツ
「ガス供給の停止時は、需給逼迫からガス価格や電力価格の一段の高騰が避けられない。加えて、ドイツでは経営難に陥ったエネルギー企業を救済するため、ガス価格の上昇を消費者に転嫁することを認める支援策が検討されている。(9月以降)ドイツの物価上昇率が再加速する可能性が高い。(中略)インフレ警戒を強めるECB(欧州中央銀行)がより積極的な利上げに踏み切り、景気を冷え込ませる可能性が高まる」

   ロシアの天然ガス供給ストップという措置によって、物価高騰と景気後退のダブルパンチがドイツ国民を襲ってくるというわけだ。

   ドイツ連邦銀行(中央銀行)はガスの配給制を開始した場合、ドイツの実質GDP(国内総生産)が向こう1年間で3.3%減少すると試算。さらに、外需の冷え込みなどの要素を加味すると、2023年の実質GDPが7%近く押し下げられる、と発表している。

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