コロナ禍によって最も大きな変革を遂げた東京都――。
テレワークの実施率を高水準に維持し、毎日出社しなくても効率よく業務を遂行できる次世代型の働き方にいち早く対応したのは都内に本社を置く各企業です。そして、DX:デジタル・トランスフォーメーションを推進して、コロナ後を見据えた事業のあり方を変革することを厭わない企業も数多くありました。
このような「コロナ仕様」が奏功したのか、東京都の2022年度当初予算案では、都税収入は3年ぶりのプラス、約5兆6300億円程度を見込めるまでに回復しつつあります。
このような状況で、コロナ禍で大きく減少(転出超過)していた東京都への流入人口が、2022年に入ってようやく回復し始めています。では、東京都内の賃貸物件の平均賃料はどうなっているのでしょうか。
東京都内の賃貸物件(ワンルームタイプ)の平均賃料上昇
<東京都への人口流入回復&人流の「都心回帰」本格化! これからの住宅需要、賃料どうなるか?...専門家がいち早く解説【1】(中山登志朗)>の続きです。
このような状況にともなって、東京都内の賃貸物件(ワンルームタイプ)の平均賃料も、徐々に上昇し始めています。
毎年春先は年度の節目に多くの新人社員、新入学生が東京に流入して来るので賃料相場も強含むのですが、6月の平均賃料は86,424円/戸と対前年同月比で1%程度上昇しています。これは、コロナ前の2019年と比較しても2.9%の上昇となっていますから、需要と供給のバランスは取れていると見ることができます。
また、東京の中心部である都心6区(千代田区/中央区/港区/新宿区/文京区/渋谷区)でも、同じく6月の平均賃料が117,383円/戸となっています。対前年同月比では1%強、2019年比では5.2%もの大幅な上昇を記録しています。
このように、東京都および都心部の賃料水準は2022年に入って明らかに強含んでいますから、「Withコロナにおける都心回帰」の動きは本格化していると見られます。
資材・エネルギー価格の上昇&円安で、住宅価格上昇の可能性
このように、都内および首都圏の住宅市場の先行きは明るいと見ることもできますが、そこに影を落とすのが、やはり、ロシアのウクライナ侵攻の長期化に伴う資材・エネルギー価格の上昇と日米の経済政策の違いによる円安です。
世界的な鉄鉱石や原油・天然ガス、食糧・飼料の不足によるコストプッシュ型のインフレに対して、欧米各国は金融引き締め=金利引き上げによって対応しようとしています。
しかし日本は、国債発行額がG7の中でも1,000兆円と群を抜いて多く、金利を引き上げると海外の債権者への利払いが急激に増えることもあって、金融緩和政策を維持し続けています。
この金利差が円安を引き起こしている主な要因ですが、これは容易には解決できない課題です。したがって円安は継続し、その多くを輸入資材に依存する住宅産業はコストアップを受け入れざるを得ず、さらに住宅価格が上昇する可能性が高まっています。
ちなみに、日本の「消費者物価指数(CPI)」は2022年5月の総合で2.5%上昇しています。なかでも、電気やガスなどの光熱費は15.2ポイント、エネルギーは20.3ポイント(いずれも2020年対比)と急上昇しています。海外から供給される資源・エネルギー価格高騰の影響が明らかです。これに対して、「企業物価指数」は同じく5月に112.8ポイントと前年比9.1ポイント上昇しています。
サービスの価格を含む「CPI」と、物の価格だけを調査している「企業物価指数」を単純比較することはできませんが、企業が差分の6.6ポイントに相当する金額を、消費者にまだ転嫁できていないとも見ることができるでしょう。そのため、CPIは今後も上昇していく可能性が高いと考えておくべきです。
東京都の人口が回復し消費が拡大しても、住宅価格がさらに上昇することになれば、需要は減退し、市場は縮小を余儀なくされます。
参院選を大勝した政府・自民党の経済対策の策定および実施は、その意味でも待ったなしと言えるでしょう。
(中山登志朗)