先立つものはキャッシュ! ある程度、潤沢な手元資金を
経理について比較的多くのページを割いている。
経理業務がまだ整備されていないのに、外部株主から多額の出資を受けていたり、短期間に随時新しいかたちの取引が発生したりするからだ。最低限、月次試算表(貸借対照表・損益計算書)を5営業日程度でマネジメント層に提出することが目標にしてほしいという。使いやすい会計システムやクラウド型請求書作成ソフトも紹介している。
どんなに危機的なことが生じても手元にキャッシュがあれば、会社は再び成長軌道に戻れる可能性がある。
逆に、どんなに成長の可能性があっても、資金がなくなれば終わりだ。最悪の場合でも、資金ショートしないように、ある程度潤沢な手元資金を用意しておくのは、バックオフィスの最も重要な仕事だという。
では、いくら現預金があればいいのか。最悪の状況が続いても、6カ月程度は事業運営ができるだけの運転資金残高を用意することを勧めている。
経済産業省経済産業局新規産業室がスタートアップを対象にまとめた先行事例によると、資金余力がないと、ほんの些細なミスが致命傷になることがわかる。そのためにも、保守的に見積もった「資金繰り表」の作成を勧めている。
その過程で、かなりまずいことがはっきりしたら、社内で危機感を共有しなければならない。経費節減対策、資金調達の手段、人員リストラなど危機を乗り切る方策についてもまとめている。
ここまできて、ようやく総務・法務の番だ。
スタートアップの総務の場合、労働環境の整備、ルールづくりなど担当する職域が広くなる傾向がある。電話対応、ゴミ捨て、郵便などの日常業務からオフィスの移転までまとめている。また、法務では株式会社のさまざまな仕組みや法律について解説している。
スタートアップでは、経営メンバーの対立、部門間の対立、新入社員と既存社員との対立など、大きな企業では顕在化しないような問題が起きやすいと指摘している。
丹治さんがスタートアップで働く人に期待するのは、「最先端技術の研究をする発明家でなく、生来のアニマルスピリッツがある起業家でもない普通の人でも、イノベーションを起こすスタートアップで働くことで、人々の生活を向上させる長大なる経済活動の一端に参加することは可能」になるからだ。
大企業では体験できない「刺激的で充実した毎日」が待っていると、スタートアップへの入社を呼び掛けている。
(渡辺淳悦)
「スタートアップのバックオフィス必携ガイド」
丹治太著
中央経済社
3740円(税込)