今年の6月は殺人的ともいえる猛暑が続きました。その一方で、電力不足が予測されていることも、連日のようにテレビのニュースやワイドショーなどで取り上げられています。2022年6月27日には、経済産業省が東京電力管内で節電を呼びかける「電力需給逼迫(ひっぱく)注意報」を初めて適用しました。
そうしたなか、岸田文雄首相は7月14日の記者会見で、原子力発電所を今冬に最大で9基稼働すると表明しました。それにより、国内消費電力のおよそ1割相当の電力を確保するとのことです。
電力不足は深刻です。東日本大震災から11年が過ぎ、これまでは安全性の確保が確認された原発が地元の同意を得たうえで再稼働していましたが、最大で9基が一気に稼働するかもしれないのです。本当なのでしょうか。
再稼働の議論、もう先延ばしできない
政府が今年5月27日に公表した2022年度の最新の電力需給の見通しで、夏と冬は全国的に電力不足になる可能性があることがわかりました。萩生田光一経済産業相は、「節電が必要だ」と危機感を露わにしています。電力需給が逼迫する背景には何があるのでしょうか――。
政府が公表している、どのくらい供給できる電力があるかの余力を示す「予備率」においては、今夏は東北、東京、中部の3電力のエリアで、最低限必要とされる3%付近という数値になっています。
電力に余裕のある地域から、不足する地域へ送電する広域融通を加味しても、ここ5年で最も厳しい数字です。
今冬はさらに厳しく、現時点の見通しでは東京エリアは予備率がマイナスとなり、関西や九州など西日本の6エリアでも3%を下回ります。これは、東京では冬に暖房が使えなくなるという非常事態です。
この原因として、現状で一番言われているのは、今年3月16日深夜にマグニチュード7.4の揺れを引き起こした福島県沖地震の影響で、東北電力などの複数の大型火力発電所が長期停止に追い込まれたことのようです。
さらに、関西電力の高浜原発3号機で伝熱管の損傷が見つかり、5月に予定していた再稼働時期が見通せなくなったことも重なったと言われています。とはいえ、1番の影響としては、やはり原子力発電所が稼働再開できないことが大きいと考えられています。
原発再稼働には、もちろん安全性の問題が横たわりますが、今冬の電力不足はかなり深刻です。「安全性をしっかり確保したうえで再稼働すべき」の声は、ジワジワと広がりをみせていました。世論も変化しているようです。
「貧すれば鈍する」!?
仕事でフクシマを訪ねる機会が多く「反原発」を訴える、ある経営者は、岸田首相が「電力の逼迫」「エネルギーの安定供給」を理由に9基の原発を再稼働することを表明したことに、「貧すれば鈍するだな」と、つぶやきました。
最大9基の原発を稼働することで、日本全体の電力消費量のおよそ1割に相当する分を確保できるそうです。
再稼働に賛成の人の多くは「安全性の確保が大前提」と前置きしますが、「背に腹は代えられない」と言います。
再稼働させる原発は、関西電力の美浜原発(1基)と大飯原発(2基)、高浜原発(2基)、九州電力の玄海原発(2基)と川内原発(2基)、四国電力の伊方原発(1基)と、いずれも西日本です。これらの電力会社はおそらく、今回「お墨付き」を得たことで、ほぼ間違いなく再稼働に踏み切るのではないでしょうか。
とはいえ、仮にせっせと広域融通したとしても、東北、東京、中部の3電力のエリアの予備率は厳しいと言わざるを得ない状況が続くように思います。
ちなみに東京地裁は7月13日、東京電力の福島第一原子力発電所事故を巡る株主代表訴訟で、旧経営陣4人に対して、東電に計13兆3210億円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。
裁判の賠償額としては過去最高だそうです。東電は13兆円超を手にしますが、旧経営陣はその金額を支払わなければなりません。今冬、これらの原発を再稼働させて、万が一事故が起きて、福島第一原発事故のようなことが起こったとしたら、そのときは国がきちんと責任をとってくれるのでしょうか?