伝統的アメリカ社会への「破壊工作」
前著「『アメリカ』の終わり」で山中さんは、「アメリカ人の半数が、2020年の大統領選挙で不正が起きたと考えており、正統性を疑われているバイデン政権の基盤は脆弱だ。グローバリストと左派にコントロールされているバイデン政権は、アメリカを、より中国に近い全体主義的統制社会に近づけ、矛盾が激化していくだろう」と予測していた。
だが、現実は山中さんの予想をはるかに上回り、過去に経験したことがないほどの「反アメリカ」勢力による、伝統的アメリカ社会への破壊工作が始まったと考えているというのだ。それは「クーデター」と言っていいほどだとも。
見出しを少し眺めるだけでも、日本のメディアがあまり報じない刺激的な文言が並んでいる。
「民主党はあなたのお祖父さんが知っている民主党ではない」「バイデン大統領は『民主党中道派』ではなく、堂々たる左派」「アフガニスタン敗戦は、米国史上最悪の屈辱」「バイデンが就任当日、大統領令にサインした瞬間に世界インフレは始まった」......。
日本のマスコミだけを見ていると、2016年からとてつもなく評判の悪かったトランプが、なぜ2020年の大統領選において、有権者の約半分の7500万票近くを得たのかということは全くわからないだろう、と指摘している。
山中さんの見解はこうだ。2016年に大統領に就任したドナルド・トランプは、それまで太ったライノー(サイ)と揶揄されていた「地方の保守的なお金持ちの党」であった共和党を、黒人、スパニッシュ系、アジア系、女性たちが中心となるミドルクラスとブルーカラーの党に作り替えた。
事実、2020年の大統領選において、黒人男性票が前回の8%から18%に増え、スパニッシュ系票、アジア系票とも前回から大幅に票を伸ばしたという。
対決の構図は「グローバリスト・エリート 対 草の根愛国者」だと見ている。
もっとも、山中さんはトランプ主義者でもなければ、トランプを応援したいために、本書を書いたのではない、と書いている。
民主党のオバマ政権の8年間で、中小・零細業者たちは、増税やオバマケアの負担増などで苦しんだ、という思いのほか、まずはアメリカ人の利益になるかどうかを真っ先に考えるトランプの姿勢が、いまこそアメリカには必要なのではないかと考えていたのだ。
なお、山中さんが自分を「草の根愛国者」と考えているのは、空手を通じて道場に通う多様な階層の同僚や弟子との交流により、「さまざまな価値観を持つ米国市民のリアル」を知り、生活者・納税者の視点を強く持ったからだそうだ。
中間選挙はずばり、共和党が大勝するだろうと予想している。だが、左派の浸透ぶりとアメリカにおける中国の影響力の強さもなかなかのものである。その結果、アメリカの分断はますます進むことだろう。日本にとっても決して座視できないことである。
本書は2022年3月31日の発行で、ロシアのウクライナ侵攻と米欧諸国によるウクライナ支援についての記述はないことをお断りしておきたい。侵攻が始まった2月24日前に校了したと考えるのが自然だろう。今なら、山中さんがどう書くのか知りたいと思った。
(渡辺淳悦)
「アメリカの崩壊」
山中泉著
方丈社
1650円(税込)