「自由貿易の番人」WTO、久々の存在感...ウクライナ侵攻で深刻化する「食糧危機」対応...6年半ぶり「閣僚宣言」採択の舞台裏

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新興国と先進国との利害対立どう調整? WTOの抱える課題多数

   WTOはモノやサービスの自由化をめざして1995年に発足。意思決定には加盟する全164か国・地域の同意が必要となる。経済成長に伴い中国やインドなど新興国の発言力が高まり、先進国との利害対立が頻発していた。

   特に今回、ロシアのウクライナ侵攻という状況での開催は、合意を危ぶむ声も多かった。

   日米欧などは制裁の一環でロシアへの最恵国待遇(関税などいずれかの国に与える通商上の最も有利な待遇を、他のすべての加盟国に対して与えなければならないという原則)の適用を相次いで取り消している。平時ならありえないことだ。

   そんな中でも、なんとか閣僚宣言採択に漕ぎ着けたのは、ウクライナ侵攻への言及を避けたからだ。

   侵攻で深刻化する食料危機への対応を優先したかたちで、日米欧なども「ロシアがいることで国際社会が何も合意できないと、かえってロシアに『拒否権』を与えるようなもの」(交渉筋)との現実的な判断が働いたという。

   WTOはひとまず、「自由貿易の番人」としての最低限の責任は果たしたかたちだ。だが、経済安全保障を理由にした対中国貿易の制限や、巨額補助金を使った半導体の自国生産誘致合戦など、本来の自由貿易体制に反する動きが相次ぐ。

   多国間体制を維持していく道は平たんではない。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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