「自由貿易の番人」といわれる世界貿易機関(WTO)が食料危機への対応などで合意した。
このほど開かれた閣僚会議で宣言を採択したもので、機能不全が指摘されてきたWTOが久々に存在意義を示したと評される。 ただ、利害が対立する課題は先送りしており、自由貿易の旗振り役の復活には程遠いのが実態だ。
「農産物輸出に制限を課さないことが重要」再確認
スイスのジュネーブで2022年6月12日に始まった閣僚会議は会期を延長して17日まで開かれ、閣僚宣言の合意に達した。事務局長の交代やコロナ禍による延期で、開催自体が4年半ぶりだったが、宣言がまとまるのは2015年12月のケニア以来約6年半ぶりになる。
最大の成果は食料危機への対応だ。「農産物に輸出の禁止または制限を課さないことの重要性を再確認する」と明記した。
ロシアの侵攻で世界の穀倉地帯であるウクライナ産の小麦やヒマワリ油などの輸出が滞り、穀物価格の高騰と相まって、中東やアフリカ諸国を中心に途上国の食糧事情が悪化している。このため、米国の国際食糧政策研究所(IFPRI)によると、侵攻後にマレーシアやアルゼンチンなど20か国以上が輸出制限に踏み切っている。
閣僚宣言は、こうした状況をふまえ、やむを得ず輸出を制限する場合は「貿易歪曲(わいきょく)性を最小化し、一時的で透明性をもたせる」ことでも合意した。規制は最小限にし、期間を限り、対象も明確にし、透明性を確保するということだ。また、世界食糧計画(WFP)向けの人道支援目的の食料は対象外にすることも決めた。
もう一つの成果が、長年の懸案だった漁業補助金の問題だ。2001年に新興国や途上国も交えて、関税削減や投資自由化の一括合意を目指す新多角的貿易交渉の一部として始まったが、厳しい規制導入を主張する欧米と、例外措置を求めるインドやアフリカなどの途上国との対立が延々と続いていた。
今回、乱獲状態にある資源の漁業を対象とした補助金は禁止し、乱獲に歯止めをかけることで合意した。ただ、漁業に依存する途上国がどんな特別措置を受けられるかなどについては継続協議となった。
新型コロナウイルスのワクチンについては、パンデミック時には特許権を一時的に制限し、途上国での製造を後押しすることで合意した。ただ、治療や診断も対象とすべきだとの途上国の主張は、先進国の反対で見送られた。