SUBARU(スバル)が米国のベル・ヘリコプター社と共同開発した新型ヘリコプター「SUBARU BELL(スバル・ベル) 412EPX」が日本の官公庁に相次ぎ採用されている。
1995年の「205B-2」以来となる民間ヘリ共同開発・生産
スバルは2022年6月17日、国土交通省中部地方整備局から同機を受注した。国交省は災害発生時の情報収集や緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)に利用するほか、平時は各種調査に用いる。納入は2024年の予定。
6月21日には海上保安庁からも受注した。海保では海難救助や被災地への物資輸送などに用いる。納入は2025年という。
スバル・ベル412EPXは、世界でベストセラーとなった「ベル412型」の後継となる新多用途ヘリコプターだ。スバルにとっては、1995年の「205B-2」以来となる民間ヘリコプターの共同開発・生産となるだけに、ビジネスとして失敗は許されない。
スバル・ベル412EPXは2021年5月、初号機を警察庁に納入。今回の受注はそれに次ぐものだ。
412EPXは、陸上自衛隊の新多用途ヘリコプター「UH-X」とプラットフォームを共有する「民間・防衛兼用」の多用途ヘリとして開発したのが特徴だ。
スバルは2015年に防衛省からUH-Xの開発を請け負い、18年に試作機の飛行試験を開始。22年5月には「UH-2」として、量産初号機が初飛行を行った。今後は412EPXベースのUH-2が、自衛隊機として活躍する見通しだ。防衛省の調達が始まれば、ある程度まとまった機数の生産が可能だろう。
「スバル・ベル412EPXの量産事業は、当社の航空宇宙カンパニーの将来を見据えるうえで非常に重要な戦略的事業だ。民間から防衛にわたる幅広い領域に取り組むという、これまでに経験のないチャレンジングな取り組みだ」
スバルの航空宇宙部門でヘリコプター開発を担う責任者は、こう述べている。スバルはベルと協力し、米国、カナダ、オーストラリアはじめ世界で150機以上の412EPXの販売を目指すという。
スバルは1960年代にベルのヘリコプターのライセンス生産を始めて以来、防衛省、海上保安庁、警察庁、自治体などに400機以上のヘリコプターを生産・納入してきた実績がある。
「離島防衛や災害救助での活躍を」 運動性能と信頼性の高さへの矜持
今回、国交省や海上保安庁から受注した新型ヘリも、両省庁が旧モデルに当たる「BELL 412EP」を保有しているため、「既存リソースの活用等、スムーズな導入・移行が可能になる」として、採用されたのだという。
つまり、旧モデルの交代時期がくれば、新型ヘリに更新する可能性が高く、スバルにとっては保守・点検を含め、安定したビジネスにつながるわけだ。
スバルは災害派遣などで活躍する新型ヘリについて、「日本の複雑で狭隘な地形でも人命救助を可能とする。離島防衛や災害救助でも活躍が期待される」と、運動性能と信頼性の高さを強調する。
この考えは、「走り」の楽しさと安全性を重視するスバルのクルマづくりの哲学そのものだ。
スバルの前身は、戦前の名門航空機メーカー「中島飛行機」だ。第2次世界大戦中は「隼」や「ゼロ戦」などの戦闘機を手掛け、戦後は自動車メーカーに転身した。現在、日本の自動車メーカーでヘリコプターを開発・生産するのはスバルだけだ。
果たして中島飛行機の伝統とDNAを受け継ぐスバルが、新型ヘリをビジネスとして成功させることができるのか。文字通り「チャレンジングな取り組み」の行方が注目される。(ジャーナリスト 岩城諒)