「貯蓄から投資」本当に進んでいるのか? 個人株主数8年連続増、6000万人超え...この数字に隠されたカラクリとは(鷲尾香一)

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なぜ不自然な株価形成は日常茶飯事に起きるのか?

   こうした異常な株価形成は、株式投資を行っている人の多くは経験しているだろう。たとえば、株式の個別銘柄では朝1番の取引(寄り付き)では、「板寄せ」という方法を用いて株価が決まる。

   板寄せは証券会社から発注された売買の注文によって、売買が成立する株価を付け合せる方法だが、これが実に不可思議なものだ。

   たとえば、多くの銘柄では買い注文が強く、板寄せ段階の株価が上昇している中で、特段の売り材料もなく、同じセクターの他の銘柄の気配値は上昇しているのに、A社だけが売り注文が多く、気配値が大幅に下落していることがある。

   その注文状況を見ると、A社の前日終値が5000円だったとすると、板寄せの気配値は4500円と10%も下落している。4500円から下には気配値ごとに1000株以上の買い注文が並んでいるのに、なぜか4500円から上の売り注文は100株がずらっと並んでいる。

   つまり、5000円から4500円の間では、各気配値に100株の売り注文しかないのに、なぜか4500円の売り注文だけが5000株あったりするのだ。そして、4500円から下には、通常ペースの1000株を超える買い注文が入っている。

   これは、明らかにA社株の株価を左右できるだけの株数を保有している機関投資家による仕掛けだ。こうした不自然な株価形成は、いくつもの銘柄で、日常茶飯事で起きている。

   個人投資家は資金力でも、保有株数でも機関投資家には対抗できない。こうした歪んだ株価形成でも泣き寝入りするしかないのだ。

   このような歪んだ株価形成が株価の上昇で起きているのならまだしも、下落で起きれば、個人投資家は大きな含み損を抱えることになり、その損失が大きければ、株式市場から退場せざるを得なくなる。

   株式投資の先進国米国では、上場株式のうち個人の株式保有比率は約4割となっている。それでも、機関投資家の不自然な、歪んだ株価形成には対抗することができない。

   ただし、米国のSEC(証券取引委員会)は大きな権限を持ち、こうした株式市場での不正な取引を厳しく取り締まっている。

   政府の「貯蓄から投資へ」という政策は、年金問題に端を発し、社会保障制度を含め、高齢化社会で、老後の生活資金を個人が自ら資産形成して、政府の負担を軽減しようという考えによる。

   その実現のために最も重要なのは、資産運用、投資に当たって、公正で公平な投資・運用環境が整えられることにある。個人投資家の株式保有比率が低下を続け、株式市場から退場せざるを得ないような不公正で不公平な取引がまかり通ることのないように、早急に対策を行うべきだ。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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