GDP比2%増にはあと5兆円必要、公共事業費に匹敵
「週刊東洋経済」(2022年7月16日号)の特集は、「自衛隊は日本を守れるか」。「防衛費倍増」の前に知っておきたい軍事の常識をまとめている。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、覇権主義的な行動を取る中国への警戒感が日米両政府で急速に高まり、防衛費の「GDP比2%」と敵基地攻撃能力が焦点になっている。
参議院選の自民党公約では、防衛費について「GDP比2%を念頭に、5年以内に防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」としていた。NATO(北大西洋条約機構)加盟国で国防費をGDP比2%以上とする基準が目安とされた。
現在の防衛費は5兆4000億円で、GDP比で0.96%だから、2%に増額しようとすれば、あと5兆円増やすことになる。実現すれば、世界で9位だった国防予算が米国、中国に次ぐ世界3位になる。
自民党の国防部会長の宮沢博行衆院議員は、「5年で2%達成が目標」と断言するなど、国防関係議員は勢いづくが、自民党にも異論があることを紹介している。
元防衛相の岩屋毅衆院議員は「5兆円をどこから持ってくるのか。増額分を何に使うのか。そうしたことを説明しないまま、数値目標だけを先行させるのは適切ではない」とインタビューに答えている。
財源も課題だ。倍増させる5兆円超は、公共事業費5兆6000億円に匹敵する。これだけの予算を毎年配分することに、国民の理解は得られるだろうか。
もう一つの論点は、敵基地攻撃能力の保有である。
政府は、今年末までに、安全保障政策の重要な指針である「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の防衛3文書を一括して見直す方針で、この中で自衛隊の原則である「専守防衛」を見直し、敵基地攻撃能力の保有を明確にすると見られる。
具体的には、敵のミサイル基地などを直接破壊できる能力のことを指す。
日本が敵基地攻撃能力を持つためには、中国や北朝鮮に到達できる射程が3000~5500キロメートルの中距離弾道ミサイル(IRBM)の保有が必要とされる。
◆自衛隊の実力
パート2では、自衛隊の実力を検証している。元陸将補で作家の二見龍さんは、自衛隊は装備品の補給や整備など兵站は不十分で、「このままでは張り子の虎になる」と警告。「戦える部隊」への脱皮を求めている。より実戦を意識し、強い部隊の育成に努めなければならないという。
また、軍事ジャーナリストの清谷信一さんは、「自衛隊は軍隊としてガラパゴス。防衛費増でも国防力は伸びない」と書いている。「防衛省・自衛隊の常識は、国防省・軍隊の非常識」と言っても過言ではない、として、装備品開発の黒歴史について言及している。
予算の無駄遣いの実例を聞くと、防衛費を大幅に増やしても、国防力を増強できるのか疑わしくなる。他国の軍隊並みの「常識」を身につけることを清谷さんは求めているが、「専守防衛」を旨とし、実戦経験のない自衛隊にはリアリティーがなかったのかもしれない。
ビジネス誌としては異例の特集だが、有益な内容だと思った。