デジタル人材より「普通の労働者」に投資を
さらに、「人材投資と賃上げ促進にこそ力を注ぐべきだ」と強調するのは日本総研主席研究員の山田久氏だ。山田氏のリポート「参院選挙後の優先政策課題」(7月11日)では、日本企業がいかに従業員の人材育成に「カネ」を使っていないか、米英仏独伊の主要国と対GDP比で比較した能力開発費のグラフを紹介している=図表3参照。
これを見ると、日本は米国の約20分の1、フランスの約18分の1、ドイツの約12分の1、イタリア・イギリスの約10分の1といったありさまだ。
「人への投資」は岸田政権の「新しい資本主義」のキーワードであり、全面的に賛同するが、デジタル人材への投資より「普通の労働者」を大事にすることに力を注ぐべきだ、と山田氏は指摘する。
「デジタル人材の育成の必要性が指摘されるのは正論である。だが、日本企業の強さの伝統は普通の労働者の質の高さにある。その意味では、人口動態上、男性現役世代がますます少数派になるなか、性別役割分担意識で阻害されてきた女性の活躍推進と、今後働き手のボリュームゾーンになっていくミドル・シニア層の再活性化こそ、人への投資の本丸である」
「いまや韓国を下回るようになった平均賃金を、持続的に引き上げていくことが不可欠の課題である。(中略)重要なのは、それは単なる分配政策ではないということである。賃上げは、働き手のモチベーションを高めて生産性を引き上げるとともに、企業の投資を促す国内市場拡大のためにこそ必要であり、むしろ成長政策の優先事項に位置付けられるべきものである」