60歳以上の常用高齢労働者数は、2011年から2021年の10年間で167.4万人(66.0%)も増加した。ただ、雇用状況などを見ると、高齢者雇用はまだまだ不十分な状況なのも明らかだ。
60歳以上の雇用、400万人を突破
高齢化の進展と少子化により、労働力人口は減少の一途を辿っている。対策として「高齢者と女性の活用」は長く言われ続けていることだ。
厚生労働省は2022年6月24日、従業員21人以上の企業23万2059社からの報告に基づき、2021年6月1日時点での企業における年齢者雇用確保措置などの実施状況等をまとめた「令和3年 高年齢者雇用状況等報告」を公表した。
それによると、この10年間は年平均で5.1%の増加が進み、2011年には253.6万人だったが、2015年には304.7万人と300万人を超え、2020年には409.3万人と400万人を突破した=表。
この背景には、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)で企業に「定年制の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を65歳まで講じるよう義務付けていることがある。
この措置を実施済みの企業は99.7%に上るが、定年制の廃止はわずか4.0%にとどまっており、定年の引き上げでも24.1%で、71.9%は継続雇用制度の導入となっている。
継続雇用制度は「再雇用」や「契約社員」として雇用の継続を行うケースがほとんどで、ほとんどの企業では同制度による雇用継続の場合には、現役社員時代の半額程度まで給与が減少する。
加えて、「業務内容は現役時代とまったく同じ」のケースも多く、さらに、「福利厚生面で差別がある」場合も多く、継続雇用後に退職する高齢者も多い。
そのうえ、継続雇用制度が希望者全員を対象としているのは80.9%で、残り約20%の企業は「希望しても継続雇用されない」状況だ。
つまり、「高齢者の活用」とは名ばかりのもので、「雇用してやっている」あるいは「現役よりも格段に安い労働力」程度の認識しかない。
定年を65歳に引き上げている企業、わずか21.1%
60歳定年を65歳に引き上げている企業は、わずか21.1%(中小企業21.7%、大企業13.7%)にとどまっている。また、中小企業よりも、雇用者数301人以上の大企業の方が高齢者雇用に対して後ろ向きであることがわかる。
さらに、定年を66~69歳に引き上げている企業(1.1%)では、中小企業1.2%に対して大企業が0.2%、さらに70歳以上に引き上げている企業(1.9%)では、中小企業2.0%に対して大企業は0.5%でしかない。
政府は2021年4月1日から、70歳までを対象として「定年制の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」といった雇用による措置や、「業務委託契約の導入」、「社会貢献事業に従事できる制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じるよう努力を義務付けた。
だが、この70歳までの就業確保措置を実施済みの企業はわずか25.6%で、中小企業では26.2%、大企業では17.8%となっている。
実施措置としては、定年制の廃止は4.0%と60歳定年の廃止と同数なのは当たり前だが、定年の引上げは65歳までの雇用措置では24.1%だったのが、わずか1.9%にとどまっている。 継続雇用制度の導入は19.7%で、こちらも65歳までの雇用措置で71.9%だったのに比べると、大きく低下している。そのうえ、新たに導入された創業支援等措置はたったの0.1%に過ぎない。
こうした実態を見ると、企業の多くは高齢者雇用を法律で義務付けられているため、とりあえず対応している程度のものでしかないことがわかる。
一方で、生活保護を受給している高齢者世帯は、受給世帯全体の55.9%にあたる91万3456世帯にのぼり、毎月増加を続けている。
高齢者雇用が健全に進められなければ、生活保護に頼る高齢者は増加するばかりで、これは社会保障費の増大につながり、現役世代の負担を増加させることになる。