リーダーが部下に伝えるべきことは何でしょうか。評価、注意、できていない(ネガティブな)ことの指摘...そう答えるリーダーは少なくありません。しかし、時代が変わり、部下が求めるもの、成長に必要なことが変化してきました。
「国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック(ヴィランティ牧野祝子 著)あさ出版」
時代とともに変化する「言葉の力」
本書が指南するポジティブフィードバックとは、思いやりを言語化した良質なコミュニケーションを意味します。「ひとつの褒め言葉で2か月は生きられる」。これは、作家マーク・トウェインの言葉です。人は、誰かの言葉によって励まされたり、力をもらったり、心が救われたりするものです。みなさんにも思い当たる言葉がありませんか。
「仕事柄多くのビジネスパーソンに出会い、お話をお聞きする機会があります。その際、彼らの会社の優秀なリーダーについてヒアリングをしているのですが、日系、外資系にかかわらず、『リーダーのポジションが上位であればあるほど、ポジティブフィードバックが上手である』という意見がとても多く出てきました」(牧野さん)
「世界的に有名なリーダーも、ポジティブフィードバックに定評があります。アメリカで週給50ドルがかなりの高給とされていた時代に、1日3000ドル以上の給料で仕事をしていた、チャールズ・M・シュワブも、スタッフ対応が大変素晴らしく、その対応方法は、デール・カーネギーの著書『人を動かす』でも触れられています」(同)
チャールズ・M・シュワブは、欧州の鉄鋼会社との競争に勝つために、米国内にある鉄鋼会社の合併を主導します。カーネギーやモルガンを説得して買収に成功します。その後、ベスレヘム・スチール(2005年にミッタル・スチールと合併)を設立しました。
Apple社のスティーブ・ジョブズ、Googleのセルゲイ・プリン、ラリー・ベイジが師事した、ビル・キャンベルも部下への声かけがすばらしかったことで有名です。ビルは、人のいちばんいいところや最高の業績を強調して伝えていた、と言われています。
万能なスキルなど存在しない
筆者である私は、アセスメントが専門で、いくつかのコーチング資格作成にたずさわっていたことがあります。コーチングの特性について、考察をおこなってみましょう。
小学生や中学生時代、みなさんのなかには、嫌な先生に教えてもらうことが苦痛だった経験がありませんか。しかし、コーチングにおいては、そういうことでは務まりません。
コーチングでは個人の内面にアプローチを試みるため、キャリアの棚卸しなど他人には知られたくないような事柄も含んでいることが少なくありません。理解しておかなくてはいけないのは、テクニックやスキルではなく、信頼関係が最も重要な点であることです。
コーチングの目的は多岐に渡りますが、力量に個人差があることや、力量が水準に達しない場合、表面的なスキルの寄せ集めとなるため効果が限定的になります。さらに、資格の種類は異なったとしても、ベースのテクニックやスキルは非常に酷似しているので、やはり使い手の力量に影響されます。
あらゆる場面を想定し上手くまとめているため、力量が伴わないと、運用が難しくなります。ひとつの手法を「魔法の杖」のごとく提唱している人が目につくことがあります。しかし、万能ではないことを理解しなければいけません。美しいスマートなコーチングというよりは、個人の内面にフォーカスできなければ意味がないのです。
部下は、自分が「貢献できている」「成長している」と感じたときに、仕事へのモチベーションが最も高まります。部下の能力を引き出し、組織のパフォーマンスを向上させるためには何が必要か――。本書とともに、考えてみてはいかがでしょうか。
(尾藤克之)