あの『富嶽三十六景』は70歳を過ぎてからの作品!
以前、私がこの春から大学へ通い始めた話を書きましたが(「慣れすぎ注意!オンラインの仕事だけでは得られない...人と出会って、話して、聞いてこそ広がる視野(大関暁夫)」参照)、DXがらみの「リスキリング」ではないものの、これも一種の「学び直し」であると自認しているところではあります。
私自身がなぜ今、「学び直し」を志したのかですが、最大の理由はコロナ禍で時代の変革を肌で感じるようになり、やはり「過去の延長ではない自分」を形成する必要性を徐々に感じはじめてきたということがありました。
年齢的に考えていまさら、新たな知識をもって新領域のビジネスに手を伸ばそうということではないのですが、SDGsという言葉が国民の間で当たり前のように口にされるようになった今、「学び」もまた、「永続的な発展(Sustainable Development)」を意識して取り組むことの大切さを感じているところでもあるのです。
私は今、大学で、一般教養的な授業を受けつつ、自己のテーマをもって研究活動に従事しています。初年度のテーマとして取り上げたのは、「江戸時代の浮世絵制作を、組織論的ビジネスモデルの観点から考察する」というものです。
とくに、江戸を舞台として花開いた文化文政時代の町民文化としての浮世絵は、当時は芸術作品ではなく、あの時代のニューメディアとして使われていたという興味深い事実があるのです。そこを深堀していくことで、今の時代のビジネスづくりのヒントもあるのではないかと、好奇心を刺激されています。
そんな時代の江戸浮世絵絵師の代表格的存在として、葛飾北斎がいます。ここ数年、北斎は過去にないほどのブームです。昨年は彼の人生を取り上げた映画「HOKUSAI」の上映に加え、これまであまり注目されていなかったものも含め、彼の作品を隅々まで集めた「北斎づくし」という企画展も開催され、大盛況でした。
さらに今年もまた、「大英博物館-北斎」という海外所蔵作品を中心とした企画展が開かれました。私は自己の研究題材でもあるので足を運びましたが、その来場者の多さには驚かされることしきりです。
この突然の北斎人気は一体どこから来たものだろうかと、ちょっと不思議な感じがしていたのですが、先日仕事でお目にかかった筆者と同年代のグラフィックデザイナーの方もたまたま、「大英博物館-北斎」展を観にいったそうで、興味深いことを話されていました。
「北斎は大好き。とくに、あの代表作『富嶽三十六景』の激しい波間に富士が覗く『神奈川沖浪裏』のデザインなんて、我々、現代のデザイナーが見てもゾクゾク感動するわけです。今回の作品展の解説で知ったのですが、あの作品を含めた『富嶽三十六景』は北斎が70歳を過ぎてからの作品だそうで、さらに勇気と元気をもらいました。『人生は学びの連続、100まで生きて精進を続ければまだまだうまくなれる』と、彼は言っていたそうです」
なんと、北斎の『富嶽三十六景』もまた、「リスキリング=学び直し」の連続の成果であったのだというお話です。
つまり、江戸の昔から、長い年月にわたって活躍続けた人は「学び直し」を心掛けていたわけで、「リスキリング」は古くて新しい話だと、思わされる逸話です。もしかすると、最近の北斎人気の秘密はそんな彼の「学び」の姿勢にもあるのかもしれません。
いつの時代でも時流の変化に取り残されないためには、過去の知識や経験ばかりに頼るのではなく、常に「リスキリング=学び直し」を心掛けることが大切ということのようです。
(大関暁夫)