副社長ら幹部が逮捕・起訴されたSMBC日興証券をめぐる相場操縦事件。同社は2022年6月24日、外部弁護士による調査委員会の報告書を公表したが、ある社員は「これで終わりとは、とても思えない」とつぶやく。同社には今後、イバラの道が待ち構えているためだ。
社長宛てメール発覚、問われる経営責任
問題となったのは、証券会社が時間外に大株主からまとめて株を安く買い取り、投資家に転売する「ブロックオファー」と呼ばれる取引だ。
市場での終値が転売価格の基準となるが、元副社長らは株価が下落しないよう、自社資金で株価を買い支えていた。終値が大幅に下がり、大株主から「待った」がかかって取引が不調に終わることを避ける狙いがあるとみられるが、転売した株を引き受けた投資家から見れば、「高値掴み」を強いられた形だ。
東京地検はこうした一連の行為が違法な相場操縦に当たると判断。2022年3月に同社幹部5人と、法人としてのSMBC日興証券を金融商品取引法違反(相場操縦)の罪で起訴している。
調査委員会の報告書は、一連の行為が会社ぐるみで行われたことを強く示唆する内容だ。
自社資金による株の買い支えを「不適切かつ不公正な行為」と認定し、コンプライアンスよりも営業成績を優先する同社の業績至上主義ともいえる姿勢を厳しく批判した。
さらに近藤雄一郎社長について、起訴された元副社長から不正行為を示唆するメールを受信していたことも判明。近藤氏は調査委の聞き取りに対し、「記載部分を読んだかどうか、記憶がない」「報告も受けていない」と言い訳しているが、責任は免れない状況だ。
顧客離れで業績への打撃、グループ内での地位低下深刻
事件はSMBC日興証券の将来を大きく左右する恐れもある。
事件で顧客離れが進んだ影響で、2022年3月期連結決算は収益が100億円程度、下押しされたと推計される。
監督官庁である金融庁は、証券取引等監視委員会による検査内容などを踏まえ、今夏にも業務改善命令などの行政処分を出す方向。23年3月期決算は、さらに下押しされる見通しだ。
業績以上に深刻なのがグループ内での地位低下だ。
同社は三井住友フィナンシャルグループ(FG)の中核企業の一つ。しかし、調査報告書発表の前日、三井住友FGはインターネット金融大手SBIホールディングスとの資本業務提携を発表した。
三井住友FGがSBI株の約10%を握り、長年、グループの「弱点」と言われてきたネット証券の強化を進める方針だ。
ネット証券の強化は本来、SMBC日興証券が進めるべき分野だが、今回の提携に同社の名前はなかった。
「三井住友FGは、不祥事が続き当面、業務の正常化が見込めない日興を見限り、証券分野の中核をSBIに切り替えるつもりではないか」。金融界にはこんな観測も流れる。
近藤社長は2022年6月24日の記者会見で自身の進退について「三井住友FGなどと協議し、私自身の責任を含めて所在をはっきりさせていく」と述べ、早期の引責辞任は否定した。
ただ、顧客離れが止まらない現状を打破するのは容易ではない。行政処分が厳しい内容になれば、業績への打撃はさらに深刻になる。
ライバル証券大手から「あまりに稚拙」とあきれられた相場操縦事件は、SMBC日興証券の経営を揺るがし、金融業界の大再編のきっかけとなる可能性も秘める。(ジャーナリスト 白井俊郎)