女将は、瞬時に無意識にポーカーフェースを装う
この顔に対する脳波の反応をめぐる不可解な「女将の謎」をどう理解すればよいのだろうか。J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、研究グループリーダーである生理学研究所の柿木隆介・名誉教授に話を聞いた。
――今回の研究成果のポイントは、女将さんの脳波が一般の人に比べて、客の「怒った顔」と「無表情の顔」にすばやく反応した点。そして、すぐにその反応が小さくなった点にありますね。しかも、客の「笑った顔」にはさほど反応しなかった。この「女将さんの謎」はどう解釈したらよいのでしょうか。
柿木隆介さん「僕らもびっくりしているのです。今回の女将さん群のような反応は、世界的にも初めての報告ですから。普通の人なら『笑った顔』の印象が強くて、『笑った顔』『怒った顔』『無表情の顔』の順番で強く反応するものなのです。
しかし、女将さんたちは普通の人より0.1秒前後早く、『怒った顔』と『無表情の顔』に鋭敏に反応しました。これはもう無意識の間髪を入れず、といった反応です。しかも、女将さんたちのほぼ全員がこういう特殊な反応を示したことは大きな驚きでした。
さらに驚いたのは、2番目の反応で表れるN170成分が普通より小さくなったこと。先行するP100成分が大きい場合には、次の成分であるN170も大きくなることが一般的です。このような反応の急激な現象は非常に稀なことです。
女将さんたちは、0.1秒で鋭敏に反応した脳活動を無意識のうちに抑制したと考えられます。
理由としては、脳反応の変化が自分の顔や言動に出て、客や従業員にわかると非常にまずいから、脳活動を抑制してポーカーフェースを装ったものと思います。だって、温泉旅館にはワケアリというか、いろいろな事情のある客が少なくないですからね。しかも、こうした脳活動がすべて無意識な点が驚きです」
――女将さんたちは、日頃のどういうトレーニングから「おもてなしに長けた」人になったのでしょうか?
柿木さん「まず、こういう能力が先天的なものか後天的なものかの解釈が問題となります。ほとんどの女将さんは、外部から嫁入りした方たちなので、やはり後天的に身に付いた能力だと解釈すべきだろうと思います。
どういうトレーニングが必要か――これは僕らの研究にとっても一番重要な問題なのですが、これに関しては、僕らにも、そして当事者の女将さんたちにもわかりません。特殊な状況下で長期間働いてきたことによる特殊能力、としか言えませんね」