経営再建中のマレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)が、民事再生法の適用申請に追い込まれた。
3月に私的整理の一つである事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)の制度を申請していたが、2022年6月24日に開いた債権者会議で全融資元からの合意が得られなかった。
負債総額は1兆円を超え、製造業の破綻としては過去最大規模になる。部材などの取引先企業への支払いは継続する。
ただ、今回の「否決」は、ちょっとしたハプニングというもので、新たな再生法の手続きにより、1、2か月のうちに債務の整理は終わるとみられる。それでも、経営環境は厳しいままで、再建の道筋は視界不良だ。
債権者会議では、一部の金融機関が再建計画に反対
これまでの経緯を整理すると、マレリはADRをめざし、現在の親会社である米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)がそのまま支援企業(スポンサー)となる再建計画をまとめた。KKRが6億5000万ドル(約830億円)を追加出資し、金融機関に対しては一律42%、総額約4500億円の債権放棄を求めるもの。金融機関以外には、債権放棄を求めない。
これに対し、6月24日、東京都内で開かれた債権者会議には、融資している全金融機関26社が出席。ADRの成立には全債権者の同意が必要で、マレリは同日に26社から合意を得る段取りだった。しかし、中国資本の銀行など一部の金融機関が再建計画に反対の意向を示した。金融債権の金額ベースでの賛成率は95%だった。
これを受け、マレリは民事再生法を使った再生のうち、「簡易再生」手続きへの移行を表明し、東京地裁へ開始を申し立てた。簡易再生は金額ベースで債権者の5分の3以上の同意があれば、裁判所が債権の調査・確定手続きを省いて、再生計画の開始を決定できる。
ADRでの決着はならなかったが、9割以上が賛成したADRの再建計画を引き継ぐので、簡易再生の手続きは順調に進むと見られている。マレリは、早ければ8月上旬にも手続きを終えたい考えだ。
ADR計画への反対があったことについて関係者は、「国によって企業再生の制度は多様で、理解しにくかったのではないか」といった見方を示すが、金融筋は「多少、遅れたが、簡易再生は大きな手間はかからず、順調に手続きは進むだろう」と楽観的な見方を示している。
自動車業界、変革期&半導体不足で減産...マレリの収益改善「黄色信号」
ただ、経営不振に陥った自動車部品業界を取り巻く環境、特にマレリをめぐる状況が好転しているわけではない。
マレリは、日産自動車系列のサプライヤーである旧カルソニックカンセイが前身で、いわゆる「ゴーンショック」(系列切り)、日産による連結子会社化など紆余曲折を経て、結局、日産が保有カルソニック株を2017年にKKRに売却。2019年に欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の部品部門だったマニエッティ・マレリを7200億円で買収し、現在のマレリが誕生した。
鳴り物入りのメガサプライヤーとしてのスタートだった。熱交換器や内装に強みがある旧カルソニックと、車載照明や電動パワートレインなどを手掛ける旧マニエッティというように、事業領域が重複せず、地域的にもそれぞれアジアと欧米中心という棲み分けをアピールし、幅広く稼ぐ「総合サプライヤー」を目指した。
だが、自動車業界は電動車(EV)へのシフトや自動運転など大きな変革期を迎えている。そこに、コロナ禍や半導体不足による完成車メーカーの減産が追い打ちをかけており、合併によるスケールメリットを生み出せず、マニエッティ買収資金の返済が重荷となってのしかかっている。
マレリの2020年12月期決算は282億円の最終赤字だった。21年12月期の業績は開示していないが、4期連続赤字だったとされる。債務の重荷が軽減されても、赤字体質から脱却できなければ、再建は覚束ない。ウクライナ問題の影響も含め、多くの完成車メーカーが減産を続けているだけに、収益改善は容易ではない。
あわせて、リストラ遅れも指摘される。マレリは全世界の従業員5万4000人のうち数千人削減の方針を打ち出しているが、欧州を中心に労働組合の抵抗は強く、その進捗は予断を許さない。(ジャーナリスト 済田経夫)