第26回参院選が2022年6月22日、公示された。野党側は足元の物価高や、新型コロナウイルス禍からの回復が鈍い日本経済の再生に向けた思い切った経済対策を迫り、政権を担う与党側が現実論で対抗する展開になっている。
どちらの主張が説得力をもって有権者に伝わるかが勝負だ。
金融緩和、野党の批判に岸田氏は「維持」
経済・財政分野で、与野党の主張が真っ二つに割れたのが消費税をめぐる見解だ。
立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の4党は消費税率を5%に引き下げるべきだと提案。社民党は消費税率を3年間ゼロに、れいわ新選組は消費税自体を廃止すべきとし、NHK党も消費減税を迫っている。
国民の関心が高い消費税を前面に押し出すことで有権者にアピールする戦略とみられ、他の政策ではいがみ合うことも少なくない野党の足並みが図らずもそろった形だ。
これに対し、与党の自民党と公明党は消費税率を現行の10%に据え置いたうえで、賃上げの促進などを軸に、経済の立て直しを目指す考えを打ち出している。
参院選公示前日の21日、東京・内幸町の日本記者クラブで開かれた与野党9党首による討論会でも与野党の立場の違いが明確になった。
焦点は、消費税を含む物価高対策だ。
岸田文雄首相(自民党総裁)は、野党が要求する消費税率引き下げについて、「社会保障の安定財源だ。減税は考えていない」と明言。公明党の山口那津男代表も同調し、「消費税収は年金や幼児教育無償化などに使われている。代替財源をどう確保するのか」と野党側に反論した。
為替市場で急速に進む円安の要因となっている日銀の金融緩和政策についても、日銀批判を強める野党に対し、岸田氏は金融政策を決めるのはあくまで日銀だと前置きしたうえで、「今の状況を維持していく」と述べ、黒田・日銀が続ける大規模金融緩和を支持する考えを示した。
野党「岸田インフレ」で批判、与党「野党の公約『無責任』」と攻撃
また、岸田首相は物価高対策について、現在の物価高のポイントは、原油などエネルギー価格と食料品の高騰だと分析した。そして、ガソリンなどエネルギー価格と食料品に重点を置いた対策を進めることが、「優先順位としては先だ」と理解を求めた。
これに対し、野党側は一斉に政府批判を展開。立憲民主の泉健太代表は、「物価対策の争点は(日銀の)ゼロ金利政策、小麦価格に絞られてきている。政府はゼロ金利見直しに取り組み、小麦価格の即時引き下げを行うべきだ」と強調。国民民主の玉木雄一郎代表は、物価高対策として「10万円の一律給付」を提案した。
社民の福島瑞穂党首は、景気低迷下の弱者救済策の一つとして、一時的な消費税課税の停止を要請。れいわの山本太郎代表は「上がった物価を下げるための最善の方法は消費税廃止だ」と迫った
共産党の志位和夫委員長は、アベノミクスで膨れ上がった大企業の内部留保を対象に2%、5年間で10兆円の時限的な課税を提案したが、岸田氏は「(課税という)ペナルティーを与えるのではなく、人件費、設備投資に進む環境作りの方が大事だ」とかわした。
維新の松井一郎代表は、国会議員に支給される文通費の使途公開など改革が遅れていると不満を示し、岸田氏も「使途公開等について、国民から納得される結論を議会として出していかなければならない」と応じた。NHK党の立花孝志党首は、年金生活者のNHK受信料無料化などを訴えた。
参院選は、党首討論会で出たように、国民の強い懸念材料となっている物価高対策の是非が大きな争点になる。
野党は足元の物価高への国民の不満を背景に、「岸田インフレだ」などと与党批判を盛り上げたい考えだが、与党側は消費減税など野党側の公約を「無責任だ」と攻撃する展開が続いている。
国民はどのような審判を下すのか。参院選は7月10日に投開票される。(ジャーナリスト 白井俊郎)