2022年6月10日、観光目的のビザ発給が再開されました。ヨーロッパなどに比べると、依然として行動制限は厳格で、訪問者の上限などもありますが、円安などが追い風となり、徐々に訪日観光客の数も増加していくと思われます。
現在の状況下でコロナ禍前と同等の消費が実現すれば、コロナ禍前の20%ではありますが、1.1兆円程度のインバウンド消費が見込まれるという試算も出ています。加えて、日本国内でも新型コロナウイルスへの危機感が薄まりつつあることから、すでに自治体ごとで観光需要拡大に向けた割引キャンペーンの実施や、政府も「全国旅行支援」を行う予定です。、日本国内からも、さらなる観光客の増加が見込まれるように思われます。
このような状況を鑑みて、今回は日本を代表する運輸輸送業で、ホテルなどのサービス業も展開しているJRグループの一つである「西日本旅客鉄道」(9021、JR西日本)を取り上げたいと思います。
京都や大阪...... 恵まれた土地柄
JR西日本は、大阪から福岡を結ぶ山陽新幹線をはじめ、都市間輸送を担う鉄道・バス事業を筆頭に、流通・建設・不動産・ホテル・サービス業などを近畿・中国・北陸地方を中心に幅広く展開する企業です。
こうしたエリアには、日本を代表する観光地でもある京都や、日本第二の大都市である大阪などを有するなど、土地柄にも恵まれた企業であるといえます。ですが、コロナ禍ということもあり、2022年3月期決算では、1190億円の赤字となっています。しかし、2021年3月期と比べ、赤字額は2分の1以下に縮小していることや、同年の売上額は1兆円に回復しつつあること、加えてコロナ禍後の観光需要の回復が見込まれることなどから、2024年3月期には黒字転換するという予想も出ています。
現に、今年のゴールデンウィークの利用者数は、コロナ禍前の同時期の8割程度にまで回復しており、今後もさらなる利用者の増加が見込まれます。
【運輸業について】
運輸業だけでなく、さまざまな事業を展開しているJR西日本ですが、コロナ禍前のセグメント利益を見てみると、毎年度、約65%の利益を運輸業から得ていることがわかります。また、運輸業はその特性から変動費が少なく、費用はほぼ固定費で構成されています。実際、決算書から簡単に数値を出してみたところ、限界利益率が97%と出てきました。よって、利用者数の増加は直に利益増加につながります。
このことから、JR西日本の黒字転換には運輸業で利用者数が、どれだけ戻るかがカギになります。JR西日本が公開している各年度の運輸取扱収入とセグメント別利益の推移から推測すると、利用者がコロナ禍前の70~80%にまで回復すれば、運輸業の黒字化が見込めると、私は考えております。
実際、4月こそ運輸取扱収入は60%台であるものの、5月からは70%台に回復し、ゴールデンウィークには8割程度の利用者数が回復しています。これらのことから、黒字化する可能性は高いとみています。
【運輸以外の事業について】
また、運輸業以外の物販やホテルについては、鉄道利用者の増加に伴いこれも伸びると予想できます。物販は、駅ナカのコンビニやお土産店が例として挙げられ、ホテルは駅直通といった利便性を提供し、直通でないホテルも駅の近くを確保しています。各部門の売り上げを見てみると物販、ホテルはやはり鉄道業の推移と近い動きをしています。
このことから、運輸業の回復と同様に回復が見込まれます。百貨店についても駅ビルなど、駅という立地を生かしたものに力を入れており、2019年には京都駅ビルを大幅リニューアルしています。
しかし、百貨店事業の売り上げの減少率は75%、運輸の減少率は50%と、運輸に比べ大幅に減少していることがわかります。これは、百貨店の取扱商品である化粧品やアクセサリ等の需要が減ったことにより、百貨店を目的に外出する層が減ったことに起因すると考えます。ただ昨今の円安から、高価格帯の商品を売っている百貨店は外国人観光客に有利であること、さらにアクセスが容易な駅ビルであることから、インバウンドの加速は百貨店に有利に働き、業績回復が見込めます。