バブルとその崩壊でも、物価は動かなかった
物価が上昇してきた今、「第4章 なぜデフレから抜け出せないのか」を読むと、複雑な思いにかられる。
1980年代後半の日本では、不動産や株の価格が急上昇する「バブル」と呼ばれる現象が起きたが、物価は上がらなかったという。当時、日銀にいた渡辺さんは不思議に思った。バブルとその崩壊の局面で物価が動かなかった理由を知りたいというのが、渡辺さんの出発点になったという。
その後、日本ではデフレが続き、商品の価格は上がらなくなった。この「価格据え置き慣行」はなぜ続いたのかを詳しく論じている。
「メニューコスト仮説」では説明がつかなかった。実は、価格は変えずにサイズを小さくするという「ステルス値上げ」がさまざまな場面で起きていた。それくらい、消費者は価格の上昇に敏感で、企業は値上げを恐れていたのだ。
「おわりに」で、渡辺さんは「コロナのパンデミックでインフレになるかもしれない」と2020年春に警告していたことを明かしている。日本が長く苦しんでいたデフレからの脱却になるのか、それともインフレになるのか、それはまだわからない。
入門書の体裁をとりながらも、経済学のエッセンスに触れることができる好著である。
(渡辺淳悦)
「物価とは何か」
渡辺努著
講談社選書メチエ
2145円(税込)