物価はなぜ上がり下がりするのか?

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インフレを封じる仕組み

   次に、ハイパーインフレを封じるための仕組みを紹介している。

   日銀と政府は2013年に「インフレターゲティング」を2%に決めた。主要先進国の多くが同様の仕組みを採用している。米国や欧州は日本と同じ2%だが、異なる国もある。

   人々の予想するインフレ率が中央銀行の望む水準よりも高い場合は、金利を大幅に上げることでその予想に対抗するのが、政策運営の鉄則で、「テイラー原理」と呼ばれている。

   米国の連邦準備制度理事会(FRB)が金利をいくら上げると、インフレ率がいくら上がったかを長年のデータから検証したのがジョン・ブライアン・テイラー。この人が提唱したのは、1993年のことだというから、比較的最近のことだ。

   2021年、日本や米国・欧州などの先進各国は、100年ぶりに金利ゼロの飽和点にいた。人々のインフレ予想を引き下げ、ゼロの近くで安定させるという政策の成果だが、「中央銀行の力が及ばない世界に迷い込む可能性もある」、という英国の経済学者ジョン・ヒックスの言葉を引用し、警告している。

   「第3章 物価は制御できるのか」では、インフレ予想について、経済学者が政策当事者と連携してきたことを紹介している。さまざまな理論が紹介されている。価格が上がらず硬直的なのは、レストランがメニューの書き換えを嫌がるためだという「メニューコスト仮説」、インフレ率と失業率には相関関係があるとする「自然失業率仮説」などを解説している。

   さらに、中央銀行のアナウンスと人々のやりとりについて、ゲーム理論を用いて説明している。

   かつて沈黙を守ったことから、「寺院」と称された中央銀行は積極的に情報を発信するようになった。各国の金融市場は他国の市場とリンクするようになり、中央銀行は「ちょっと大きめの取引をする市場参加者の一員」にすぎなくなったからだ。

   リーマンショックの危機からの脱出の司令塔役を果たしたベン・バーナンキ元FRB議長の「中央銀行の行う金融政策は98%がトークで、アクションは残りの2%にすぎない」という言葉を紹介している。

   その中身は「将来も貨幣を飽和させる」という約束だった。こうした政策は「フォワードガイダンス」と言い、実は日銀が元祖だ。渡辺さんを含め、日本の経済学者や政策当事者が貢献したという。日本のゼロ金利政策を、米国はチームを立ち上げ、緻密に調べていたそうだ。

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