新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降、苦戦を強いられる商品の代表と言われてきた口紅などメークアップ用化粧品に回復の兆しが見えている。
小売店などは引き続き慎重な見方が強いものの、2022年6月からはインバウンド(訪日外国人観光客)の受け入れが再開され、コスメ業界の期待は高まるばかりだ。
マスク着用のため、口紅やチークつけない場面が多かった
「少しおしゃれをして出かけようという声が聞かれるようになった」と指摘するのは、老舗百貨店の松屋銀座(東京都中央区)だ。2022年5月の同店の化粧品の売り上げは前年同月比50%増に達した。とくに、口紅やアイシャドーなど鮮やかな色のカラーメークの需要が高まっているという。
松屋銀座はこの動きを受け、6月から化粧品の買い替え需要を促すキャンペーンを開始した。長く使わずにいた化粧品の劣化を気にする女性が多いと見て、口紅やファンデーションなどを店内で回収し、クレヨンにリサイクルする取り組みを6月末まで続ける計画だ。
コロナ禍が始まった20年春以降、感染防止のためテレワークやオンライン授業が広がり、多くの女性たちは化粧をしなくなった。とくに、口紅やチークはマスクを着けるとこすれ落ちてしまうため、たまに外出する時でも口紅などはつけない人が増えた。
調査会社インテージによれば、口紅などのメークアップ用化粧品の20年の市場規模は前年比27%も減少したという。
外出&飲食で人と会う機会増えるいまこそ!
だが、そんな化粧品市場に少しずつ上向く動きが出ている。
経済産業省の生産動態統計によれば、口紅やファンデーションなど「仕上げ用化粧品」の22年3月の販売額は約221億円で、前年同月比20.2%増、前月比では45.8%増と大きく伸びている。感染状況が落ち着き、行動制限もなくなったことから、多くの人が外出するようになったことが背景だ。
「とくに、レストランや居酒屋などで飲食する機会が増え、人前でマスクを外すことも多くなったことが影響している」(化粧品業界の関係者)とみられている。
ある業界関係者は「化粧品全体としては、コロナ禍が起きる前の7割程度は戻しているように感じる。あくまで今後の感染状況次第だが、ようやく底が見えたと言ってもいいのではないか」と話す。
コロナ禍前を振り返ると、化粧品についてはもともと、品質の高い日本製を求めるインバウンド需要が大きく、コロナ禍前は東京都心の百貨店の化粧品売り場は外国人観光客でごった返していた。
2020年春に入国制限が始まってからはインバウンド需要が消えてしまったが、22年6月からはそれも再開されることが決まった。
それだけに、「化粧品売り場を再び活気づかせる追い風になってくれれば」(百貨店関係者)との期待の声が上がっている。
(ジャーナリスト 済田経夫)