「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
「決算書100本ノック」で各業界の業績を見る
「週刊ダイヤモンド」(2022年6月25日号)は、同誌の人気企画「決算書100本ノック」の2022年夏版の特集だ。損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)の財務3表を理解しながら、円高、資源高、インフレで企業業績はどうなったのか。豊富な事例をもとに、決算書を読み解いている。
日本郵船と商船三井が大黒字なのに対し、ANAホールディングス(HD)と日本航空は大赤字とコロナ禍における格差が大きかった海運と空運業界。
貸借対照表(BS)で、有利子負債から現預金および短期有価証券を除いたネット有利子負債を見ると、海運2社はその額を減らしているのに対し、空運2社はその額が増加している。とくにANAHDは、コロナ禍前に事業拡大で借り入れを増やしていたために有利子負債が大きく、返済負担が重くのしかかる、と指摘。
財務の差は、投資余力の格差につながる。キャッシュフロー計算書(CF)において、空運2社は営業CFがマイナス。営業CFと投資CFを合算したフリーCFは、海運2社の方が空運2社よりも多く、自由に使えるキャッシュがより多いことを意味する。海運大手は洋上風力発電など非海運事業への投資を検討しているようだ。
アライアンスを組む仏ルノーが電気自動車(EV)部門の分社化を宣言したことから、日産自動車でもEV分社化が取り沙汰されているという。トヨタ自動車、ホンダ、日産の自動車3社がEV分社化に踏み切る可能性があるかを、決算書から検証している。
重要な指標として、過去8期分の「CF投資余力」を挙げている。投資余力ではトヨタ、ホンダ、日産の順でトヨタが圧勝。トヨタは11.7兆円の投資を実行し、その2倍近い営業CFを稼いでいる。
それらをもとに、今後投資できるのはトヨタ10.9兆円、ホンダ3.3兆円、日産0.8兆円と予想している。これに迫る、あるいは上回る規模のEV投資を各社は表明しており、財務の圧迫度は限界に達しつつある、と見ている。日産のEV分社の切迫度が最も高そうだ、と分析している。
◆世界の製薬業界の通期決算出そろう
上記のように、業界ごとにニュースを交えながら決算書を見ているので、飽きない。他の業界のトピックを紹介すると、「不動産大手は増益ラッシュの好決算。対してゼネコン大手は軒並み営業赤字」「三菱UFJフィナンシャル・グループが7期ぶりに連結純利益1兆円超えを達成したが、銀行単体では本業の利益は3メガバンク最下位とボロボロ」「三菱商事は商社の王座を奪還したが、資産の質を比べると難題が浮かび上がる」。
新型コロナウイルス感染症関連商品の本格登場後、初の通期決算が世界の製薬業界で出そろった。
コロナワクチンを約4兆円売り上げた米ファイザーが売上高で世界王者に返り咲いた。同じくワクチン効果で、バイオベンチャーの独ビオンテックが16位、米モデルナが19位に食い込んだ。日本で唯一ベスト10入りしていた武田薬品工業は、コロナバブルに乗れず11位に後退した。
同社は売上高こそ上位にいるが、研究開発費に稼ぐ力であるFBITDA(利払い、税引き、償却前損益)を加えた「創薬投資力」では16位と実力差が開いている、と指摘している。
株式市場を意識した異常なまでの配当性向の高さが、研究開発費にしわ寄せを与えているのではないか、という投資家の声を紹介している。
「決算書100本ノック」特集号はシリーズ累計134万部というヒット企画に成長した。コロナ、EVなど時代の変化が企業業績に与える影響がよくわかる内容だ。