焼き鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」を運営する鳥貴族ホールディングス(HD)の株価が2022年6月13日の東京株式市場で一時、前週末終値比198円(9.6%)高の2253円まで上昇し、約2か月ぶりに年初来高値を更新した。
10日の取引終了後に、これまで未定としていた2022年7月期連結決算の業績予想を公表。通期の営業損益は22億円の赤字(前期は46億円の赤字)と2期連続の営業赤字の見通しだが、第4四半期(5~7月期)は3億円超の営業黒字となる見込みである点に着目する買いが集まった。
コロナ禍抜け出し、通常営業&客足戻る
四半期ベースの営業黒字は2019年11月~2020年1月期以来、10四半期(2年半)ぶりだ。まん延防止等重点防止措置が22年3月下旬に全国で解除されて以降、店舗での酒類提供は大幅に緩和されている。鳥貴族も通常営業に戻っており、客足も回復しつつある。
居酒屋業界が土砂降りとなったコロナ禍をようやく抜け出せた、とのイメージが投資家に歓迎された。円安が進行するなか、食材を国産にこだわっている点も利益面で有利とみられている。
4月下旬に踏みきった値上げが浸透しているとみられることも好材料だ。
格安かつ一律価格のメニューが売りの鳥貴族。2017年10月に280円(税抜き)から298円に値上げした際は、28年続けた「280円」の看板を外すもので、これが不評を買ってしまい、既存店売上高が22か月連続で前年割れした経緯もある。
今回の値上げは、人件費や食材価格の高騰に対応して298円から319円に引き上げるもので、税込みでは350円となる。
値上げによる影響はあったか?
だが、ふたを開けてみると客離れは起きなかった。
5月の既存店売上高は前年同月比16.5倍、客数は15.9倍だった(4月は同2.1倍)。コロナ禍前の2019年5月と比較すると、既存店売上高は83.2%にとどまる。
とはいえ、日本社会がコロナ禍前のように居酒屋で普通に飲む環境に戻りきっていないなかで、まあまあ上出来だろう。少なくとも、値上げ後の税込み350円が拒否されているわけではないといえるのかもしれない。
値上げが鳥貴族だけではなく、マクドナルドのようなハンバーガーチェーンからスシローのような回転寿司、吉野家のような牛丼チェーンまで外食産業全般に広がっていることも、好調の背景にありそうだ。
さらに、鳥貴族HDは値上げの「成功」を受けて6月17日、8月から正社員の賃金を月8000~1万円引き上げると発表した。昇給率は平均で3.1%。値上げで増える収益を従業員の待遇改善にも回す。
こうした動きが日本企業全体に広がれば、日本経済の活性化に資するだろう。(ジャーナリスト 済田経夫)