ジョブ型人事は「賃金停滞問題」を解決するか? 注目の「戦略人事」の考え方とは

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「人的資本」は経営の重要テーマに

   一方、サステナビリティ重視の世界的潮流では、「人的資本」が経営の重要テーマになりつつあるという。企業がどの程度、SDGsの17の目標に対応しているかについて、「東洋経済CSRデータ」からその割合を算出している。

   こういう結果になっている。2020年において、人的資本に関連する「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」が36.8%、「目標8:働きがいも経済成長も」が43.4%と高い。また、「目標13:気候変動に具体的対策を」も41.1%と、他の目標よりも高いことを紹介している。

   資本市場では、投資によって社会問題や環境問題を解決し、投資リターンを得ようというSRI投資が2000年代に欧米で急成長した。さらに、ESG投資、サスティナブル投資へと変遷してきたという。

   日本では、ESG投資、サスティナブル投資を推進する制度環境として、企業側へのコーポレートガバナンス・コードへの説明が経営者に求められるようになった。

   その基本原則は「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」である。女性の活躍促進を含むダイバーシティの確保、社員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇を求めるものだ。 東京証券取引所のプライム市場上場企業には、2021年版改訂コーポレートガバナンス・コードの全原則の適用が求められていることは先に書いた。

   アメリカでは2020年から日本の有価証券報告書に相当する「Form 10-K」の中で、人的資本の情報開示が義務化された。日本でも同様の動きが強まってきた。

   こうした流れの中で、日本型人事システムが変化してきたことを紹介している。たとえば、KDDIは管理職だけでなく、新卒社員まで対象を広げたジョブ型人事を2021年から導入した。また経団連は、すべての企業が一律にジョブ型人事に移行するのではなく、自社に合った雇用システムを導入することを提案している。

   この章のコラムで「新卒で賃金レベルが同一なのは日本だけだ」とあるのに驚いた。

   日本以外では職種別・職務別採用であるため、職種・職務によって賃金レベルが異なるし、個人の知識・スキル・能力・経験などによって賃金レベルが異なるのが通常だというのだ。いかに日本の人事システムが特殊なのかがわかるだろう。

   ほかに、新型コロナウイルス感染拡大にもかかわらず、国際的に比較すると、日本の在宅勤務率が低いことを指摘している。個人の職務内容が明確になっていないため、離れた場所からのマネジメントが難しいことが原因だ。日本のヒト型人事の弱点が新型コロナウイルス感染拡大で浮き彫りになった。この面からも、ジョブ型人事への移行は進むのかもしれない。

   同書では、ジョブ型人事に欠かせない職務分析、職務評価、賃金決定方法などの詳細を解説しており、移行を検討している企業の人事担当者は必読の本だろう。

   長期雇用と年功制をセットにした日本型人事システムは大きな転換点に差し掛かっていることを痛感した。

(渡辺淳悦)

「持続的成長をもたらす戦略人事」
須田敏子・森田充著
経団連出版
2200円(税込)

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