日銀、市場の期待に「塩対応!」 エコノミストはどう見た?「投機筋に負けたと言われたくない」「逃げ切れるだろう」の思惑か

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   「米FRBが0.75%の大幅利上げに踏み切ったことだし、日本銀行も少しは...」。金融市場の一部にあった甘い期待に、日本銀行は思いっきり「塩対応」を見せた。

   2022年6月17日、日本銀行は金融政策決定会合を開き、これまでどおり大規模な金融緩和を続けると決めた。「円安を加速させている」と批判があった利回りを指定し、国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」も続けると発表。

   この日本銀行の頑ななまでの姿勢の裏には何があるのか。エコノミストたちは「投機筋に負けたと言われたくない」という意地と、「逃げ切れるだろう」という期待があると指摘するが......。

  • 世界で取り残される日本銀行
    世界で取り残される日本銀行
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「マイナス金利倶楽部」の盟友たちも利上げに

   今回の金融緩和継続決定によって、日本銀行は世界的に孤立することになった。インフレを抑えるため、欧米の中央銀行がそろって利上げに動いているからだ。

   米国のFRB(連邦準備制度理事会)が6月15日、政策金利を0.75%の大幅利上げを決めたばかりだが、英国のイングランド銀行も16日、記録的なインフレを抑えるため0.25%引き上げて1.25%にすると発表した。

   日本銀行と同じく「マイナス金利倶楽部」の盟友だったヨーロッパ中央銀行も7月に利上げを行う。そして、9月までにマイナス0.5%の政策金利をマイナス圏から脱出させる。「もう1人」の盟友スイス国立銀行も16日、マイナス0.75%だった政策金利を0.5%引き上げてマイナス0.25%にした。

どうなる日本経済?(写真はイメージ)
どうなる日本経済?(写真はイメージ)

   これらの動きから、一部の海外投資家の間では、日銀がそうした時流に乗り、利上げには踏み切らないまでも、現在プラス0.25%を上限とするイールドカーブ・コントロール(YCC)の誘導目標レンジを引き上げるのではないかと予想する見方があった。

   しかし、「指し値オペを続ける」と宣言したことで、市場の甘い「期待」を一掃、6月17日のドル円相場は荒い展開となった。

   黒田東彦・日本銀行総裁は17日の記者会見で、急速な円安について「経済にマイナスであり望ましくない」と述べた。欧米の中央銀行との間で金利差が広がり、急速な円安につながることについては、「いま金融を引き締めると、さらに景気の下押し圧力になり、コロナ禍から回復しつつある経済がさらに悪くなる」と述べ、緩和策の見直しは適切でないという認識を示した。

   また、「プラスマイナス0.25%程度」としている長期金利の変動幅についても、欧米の中央銀行の金融引き締めにより、長期金利に上昇圧力がかかっていると指摘。「変動幅の上限を引き上げれば、長期金利は0.25%を超えて上昇すると予想され、金融緩和の効果は弱まる。修正は考えていない」と述べた。

世界金融不安が高まる中、「日銀だけが異次元緩和の歯止め役」

日本とアメリカの金利差がどんどん広がるばかりだ(写真は両国の国旗)
日本とアメリカの金利差がどんどん広がるばかりだ(写真は両国の国旗)

   つまり、従来の姿勢を改めて強調したのだ。こうした日本銀行の欧米の中央銀行とは真逆の政策をエコノミストたちはどう見ているのか。

   日本経済新聞(6月17日付)「日銀、大規模緩和を維持 為替の物価への影響注視」という記事につくThink欄「ひとこと解説」コーナーでは、日本経済新聞特任編集委員の滝田洋一記者は、完全なゼロ回答にならないよう声明文に「金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある」などの文言を入れたことに注目した。

「国債の指し値オペについて文言を変えると、長短金利操作打ち止めの思惑を招くので、ここはあえて前回と同じ文言に」「今回は『金融・為替市場の動向』に『十分注視』と為替に言及しましたが、金融緩和を変えないままとあって、再び円安の展開です」「賃金上昇率などの高まりを指摘したことは、異次元緩和をやめるのは日銀の『敗北』ではなく、『目標達成』だという『再定義』につながります」

と、日本銀行の狙いを説明した。

   同欄では、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏が「日銀の意地」を指摘した。

「(債券市場では)許容変動幅上限はやはり0.25%で据え置かれた。日銀が海外勢による思惑的な売買に屈服してしまうと、その信認は失墜しかねない。スイスが利上げを前倒しで実施し、グローバルな金融市場で不安感が高まる中、日銀が異次元緩和を堅持して歯止め役になったとも言える」「『金融・為替市場』の動向やその日本経済・物価への影響を十分注視するという文章が入った。為替をしっかりウォッチしていると明記することで、円安をけん制した面もあろう」

「投機筋に負ける日銀」というレッテルを貼られたくない

各国の通貨は軒並み利上げに踏み切っているが...(写真はイメージ)
各国の通貨は軒並み利上げに踏み切っているが...(写真はイメージ)

   こうした日本銀行のあまりの「塩対応」は、投機筋に対する日本銀行の「強い意地」の表れだと見るのは、第一生命経済研究所の主任エコノミスト藤代宏一氏だ。

   藤代氏はリポート「マイナス金利?楽部に留まる意向は変わらず 円安対策は『塩対応』」のなかで、金融政策会合の結果発表時間が午前11時43分という早さに注目、「『政策修正の議論すらなかった』とのメッセージに思えてならない」と述べ、こう指摘する。

「一部の海外投資家(ヘッジファンド)は、国債先物を売り込んでおり、マスコミ報道では日銀VSヘッジファンドという対立構造で攻防戦が語られていた。もっとも、ヘッジファンドは日銀を屈服させる目的で国債を売っていたのではなく、純粋に政策修正を見込み収益機会を探していたに過ぎず、そうした対立構造の説明には違和感を禁じ得ない」
「それでも一部投資家の売りを日銀がオペの多様化によって吸収していたのは事実であるから、今回、もし日銀がYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)誘導目標レンジの上限拡大などの政策修正に踏み切っていたならば、『ヘッジファンドに負ける日銀』というレッテルを貼られ、それこそ信任を失ってしまう可能性があった。日銀の立場になって考えてみれば、ヘッジファンドが売りを仕掛けている時こそ政策を維持したい、だろう」

投機筋と悪い円安批判から「逃げ切れる」と期待した?

金融緩和をいつまで続けるのか(写真はイメージ)
金融緩和をいつまで続けるのか(写真はイメージ)

   一方、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、日本銀行が政策を変えなかった背景には「逃げ切れる」という期待があったのではないかと指摘する。

   木内氏のリポート「決定会合は現状維持も日銀のYCC柔軟化はいずれ避けられないか」(6月17日付)のなかで、日本銀行は現在、連日「指し値オペ」などを駆使して10年国債利回りの変動レンジの上限を死守することに追われているが、日本銀行が「逃げ切れる」と考える理由をこう指摘する。

(1)米国では住宅、自動車などの金利敏感セクター、消費者心理の弱さを示す指標が出て、米国株式市場は不安定性を増している。米連邦準備制度理事会(FRB)が予想以上に利上げ加速するフェーズは終盤に入った可能性がある。
(2)利上げ自体は今後も続けられるとしても、利上げ見通しの上方修正が起こらなくなれば、米国の長期金利の上昇は一巡し、その影響から対ドルでの円安進行も一巡する可能性が出てくる。
(3)そうなれば、日本銀行は日本国債売りの攻撃と、悪い円安を巡る国内での批判の双方をかわすことができる。いわば「逃げ切る」ことができる。

   しかし、木内氏は「日本銀行が期待する姿が実現する保証はない」として、こう結んでいる。

「今となってみれば、日本銀行が毎営業日指値オペを導入したことが、政策を見直すことのハードルを上げてしまった。自ら退路を断ってしまった感が強い。(中略)0.25%という(投機筋の)ターゲットを事実上外していく一方、利回りの急激な上昇を抑える姿勢は維持する。ただし、ターゲットさえ外せば、市場の投機的な動きは収まる方向となるのではないか」

(福田和郎)

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