「FRBは金融市場とも困難な戦いを強いられる」
一方、「パウエル議長は、インフレとの戦いに加え、金融市場とも困難な戦いを続けなくてはならない」と指摘するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。木内氏のリポート「FOMCでは0.75%の利上げ:FRBはインフレとの戦いに加えて金融市場との戦い」では、そもそも0.75%の利上げさえ「市場の期待に沿うものだった」と指摘する。
「(FRBが)最終的に0.75%幅の利上げを決めた最大の理由は、FOMCの直前に金融市場が0.75%の利上げを9割程度の確率で織り込んでいたことではないか。金融市場の期待に沿った形の政策決定を行ったほうが、金融市場に混乱をもたらすリスクを小さくできるからである」
「そのことは、FRBの金融政策が(中略)金融市場に支配された形の決定となったことを意味するだろう。これは、FRBにとっては看過できないものであり、今後に課題を残したともいえる」
木内氏は、FRBが金融市場を相手に戦わなくてはならない困難さをこう列挙するのだ。
(1)急速な利上げが、想定以上に景気を冷え込ませるリスクが十分にある。実際足元では、住宅販売、自動車販売など金利に敏感な分野で下振れ傾向がみられ、消費者心理の悪化も見られ始める。
(2)FRBの利上げが物価上昇圧力を抑え込むには十分でないとの観測が強まれば、市場のインフレ期待が高まる。それを受けた長期金利上昇が、株式などのリスク資産価格の調整を促して、金融市場を動揺させる
(3)それが景気の下方リスクを高める。また、急速な利上げが景気を悪化させるとの懸念が市場に強まれば、それも景気の下方リスクを高める。
(4)他方で、金融市場が景気減速懸念を強めれば、インフレ期待が低下し、それは実質金利(名目金利―期待インフレ率)の大幅上昇を招く。その結果、実質金利で決まる部分が大きいFRBの利上げの効果が急に高まって、やはり景気の下方リスクを高めかねない。
したがって木内氏は、FRBが景気後退を回避しつつ物価の安定を回復させるのは、容易ではなく、「いわばナローパス(狭い選択肢しかない)ではないか」というのだ。